16「お前たち、何を密談している?」


 経験上と、言い切るほど旅を重ねてきたわけではないけど、僕と銀君の勘は一致していた。この森が修復可能かどうかを知るためにも泉に向かう必要がありそうだ。

 僕の持つスマートフォンには不思議な機能が追加されていて、施設で起きた過去の出来事を映像として見、そこから修復の糸口を探ることができる。でも過去を見るためには施設の中枢部分へ行かねばならない――というのがこれまでのパターンだった。この森でもおそらくそうだろう。


「僕の見立てだと、泉までこーやんの足なら一時間ってところかな? 僕が魔狼になれば黒獣ブラツクガルムは襲ってこないと思うけど、蔦が襲ってくる可能性はありそーだよね」

「うーん。相手が植物なら、松明たいまつを持っていくとかどうかな」

たきぎ松明たいまつにするの? すぐ消えちゃうし、けんせいできるほどの炎だったら熱くて持てないんじゃないかなー」

「そっか、そうだよね」


 二人で顔を寄せ合って明日の相談をしていたら、いつの間にか音もなく目の前に鐘馗しょうきさんが立っていた。控えめに響いた金属音に銀君も僕も驚いて飛び上がる。

 明るい焚き火を背に僕らを見下ろす鐘馗しょうきさんは、判決を読み上げる裁判官みたいに厳かな声で言った。


「お前たち、何を密談している? 俺の瞳が黒いうちは、嘘も誤魔化しも一切通じぬものと思え」

「わーすみません! 先輩たちを誤魔化すつもりは一切なくってですね!?」

「ならばその計画とやらを俺にも、包み隠さず話すがい――痛ッ!」


 鈍い音がして、鐘馗しょうきさんが頭を抱えうずくまった。後ろに立っていた木花このはさんはもう言葉で突っ込む気もなくなったのか、相方の頭に杖を叩きつけたその姿勢のまま深くため息をつき、にっこりと微笑んだ。


「その物騒な物言い、あとで添削してあげましょうねえ。それはそれ、二人とも水臭いじゃない。そんな危なっかしい対策取らなくってもさ、最高の護衛ならここにいるでしょ?」

「あっ……でも、先輩たちには、任務が」

「私たちの任務は行方不明の調査員を捜して可能なら森の調査もしてくること、だからね。こうくんの持つ力で異変が解決できれば、こちらとしても願ったりなわけ」


 木花このはさんが僕の力について言及したからか、銀君が心配そうに僕を見る。事情は伝えてあるから大丈夫、の意味を込めて僕は銀君に頷きを返し、それから立ち直った鐘馗しょうきさんを見た。

 やや不満そうではあるけど黙っているということは、鐘馗しょうきさんも概ね木花このはさんの意見に賛成なのかな。


「ありがとうございます。護衛、していただけると、とても助かります」


 僕は戦闘能力が皆無だし、銀君は銃士ガンナーなので表皮の硬い樹木相手では分が悪い。だからお二人の申し出は本当にありがたい。

 ありったけの感謝を込めて頭を下げれば、木花このはさんは「これくらい!」と明るく笑い、鐘馗しょうきさんは安心したように目元をなごめて、はにかむように微笑んでくれた。




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