13「そんな顔しないで」


 お二人は、本来なら横浜の大学に通う大学生だという。サービス終了の最終日にゲーム内チャットでサヨナラカウントダウンをしている最中、気づけば持ちキャラ《アバター》と意識が同化していたらしい。

 異世界ラノベにありがちな交通事故に遭って……などという事情ではなかったけれど、元に戻れない現状、あちらで身体がどうなっているのかもわからないそうだ。


 不幸中の幸い……なのかな、お二人ともゲーム内では闘技場のランカーになるほど強く、その設定と記憶がそのまま反映されているので呪い竜や普通の魔獣程度なら敵にもならない。その強さを王様に見込まれ、今は『へきてんの龍都』で主に魔物の討伐と復興支援をしているのだとか。

 日本人プレイヤーとしての記憶を保ちながらこの世界ケイオスワールドで生活するのは戸惑いも多く、不便も多いという。龍都は治安も物流も安定していて暮らしやすいけど、現地の状況は復興中の被災地によく似ていると木花このはさんは話してくれた。


「……そんなこと、あるんですね」

「そんな顔しないでよ。そりゃ最初は……びっくりしたし、ショックも大きかったけどねえ。今は、これもアリかなって思ってるよ。こうやって君の救援信号をキャッチすることもできわけだし」


 明るく笑って話してくれた木花このはさんだけど、憧れのゲーム世界を心から満喫している、と言える状況でないのは僕にもわかる。僕を助けてくれた時も銀君の手当てをしていた時も、お二人はそれぞれそうなほどに必死で真剣だった。

 ここはもうゲーム世界ではない。失われたものは、――命も、財産も、つながりも、取り戻せない。

 あの大崩壊の日から今までここに根差し、龍都をまもり、生き延びた人々を支え続けてきたお二人は、僕以上にその重さを実感しているはずだ。その上、現実世界の心配もあるとなれば心痛はいかばかりだろう。


「お二人は、望んでここに来たわけではないんですよね」

「それはそうよ。というかそもそも望んで来れるような場所じゃなくない……――え、こうくんは違うの?」


 木花このはさんがげんそうな表情になり、僕はどこまで話していいか迷う。木花このはさんも鐘馗しょうきさんも僕をここに来させてくれた龍神様とは会っていないらしいので、僕とは違う力が働いたのだろうけど……要因がわからないなんて僕よりずっとハードモードだ。

 情報を共有することでお互いに何かヒントが得られるだろうか。お二人は僕以上に長くここにいて今の世界のことを良く知っていて、僕にとっては頼もしい先輩のような存在だから、事情をわかってもらえたらとても心強いのだけど。


「……はい。実は――」





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