11「深い昏睡に陥ってる様子で」


 銀君が目覚めたので、日本側についての話はまた後で……という暗黙の了解が落ちる。

 木花このはさんが銀君の分も肉を切り分けてくれて、改めて食事――というところに狼のボルテさんが戻ってきた。背中に乗せられているぐったりした姿は、遭難者だろうか。

 気づいた木花このはさんが立ち上がる。


「ボルテありがと、助かった! 二人は気にせず休んでて。鐘馗しょうきさん、見張りと護衛は頼みますよ。あと、ボルテにもお肉あげてくださいね」

『お前たち、私に労働を強いておきながら先に食事を始めるなど……! おい、鐘馗しょうき、私に肉を寄越せ』

「……んむ、火が通ったものから好きなものを食えばいい」

『ぬぉ、だいぶ小さくなっているではないか!』


 鐘馗しょうきさんとボルテさんは言い合いながら競うように焼けた肉を平らげてゆく。すごい、食べる勢いと量がすごい。黒獣ブラツクガルムって結構大きく見えたけど、あっという間になくなりそう。

 隣で銀君が、はーっとため息をついた。


「あの狼さん、超レアな契約魔獣じゃん。すごいなー、本物はじめて見た!」

「あ、そうなんだ。普通には契約できない感じ?」

「神様に選ばれた人でなければ契約できなかったよ。どういう選定基準があったかは知らないんだけどね」


 なるほど、何かの特典や記念で権利が得られた系かな。見た目から『氷獄の番犬』だと思っていたけど、よく見ればボルテさんの姿は狼っぽいではなく狼そのものだ。

 以前も今も契約魔獣とは縁がない僕だけど、世界で唯一種の相棒っていいな……格好良くて。

 銀君も同じことを思っていたのかもしれない、肉を奪い合うおふたりをキラキラした目で見つめながら、「後で稽古つけてもらお」とか言っている。確か前に魔法も近接戦闘も苦手って言ってたはずだけど、何の稽古をつけてもらうつもりかな。


 しばらくして、げっそり疲れた様子の木花このはさんが戻ってきた。手にしていた杖を荷物に立てかけてから定位置に腰を下ろし、ため息をつく。


「あーもう、ごめんごめん! そもそも私ら、ここに調査のため来ていてね。ボルテのお陰で行方不明者は無事発見できたんだけど、……うーん、どうしようかなあ」

「今の方ですか?」

「そう。診た感じ外傷はなし、しっかり呼吸もしてるのに、銀くんの時より深いこんすいに陥ってる様子でねえ。おそらくこの森の魔力が関わってるんだと思う」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る