9「腹を割って話すなんてできないよね」

 木花このはさんは鐘馗しょうきさんの発言に怒っているのか、いまだ呻いている鐘馗しょうきさんを冷めた目で見下ろしている。


 仲が良いお二人の間に不和の種を蒔いてしまったようで心苦しいけど、口を挟んでいいものかもわからない。視線の向けどころに困って挙動不審をしていたら、鐘馗しょうきさんが「すまなかった……」と喋った。

 苦しげというか、息も絶え絶えに聞こえるんですが、木花このはさん無意識に魔力を乗せてませんでしたか……?


「悪気なければ許されるってものじゃないんですぅー! 今の発言、どう解釈しても敵に向ける台詞系なんだよねえ。空気読む気なさすぎない? 度を越してるでしょ、これは!」

「……面目ない」


 手厳しい指摘に項垂れている鐘馗しょうきさんは、叱られてしゅんとなってるシベリアンハスキーみたいだ……なんて失礼なことが頭をよぎり、慌てて振り払う。

 空気を読めないコミュ障として僕も反省すべき点はたくさんあるのだし。木花このはさんのいきどおりようからすると、鐘馗しょうきさんは普段から誤解されやすい人物なのかもしれない。

 少なくとも敵認定されたわけではなかったみたい。良かった…… 。


 少し気持ちが落ち着いてきたのか、木花このはさんはそこで言葉を止めて大きく深呼吸をした。僕のほうを振り向いた時には怒りも苛立ちも表情に残ってはいなかった。


「ごめんねこうくん。怖かったよね……。あのぼくねんじんが言いたかったのは、きっと『君の身に何が起きたのか知りたい』ってことだと思う。だって髪の色はともかく、服装は現代のそれだし、それこそCWFこっちには絶対に存在しないスマホなんて持ってるし」


 ――やっぱりお二人は日本人で、プレイヤー知識を持っているんだ。

 敵認定どころか心配されていたことに、申し訳ない気持ちが湧き上がる。助けてもらって食事まで世話していただきながら、恩知らずなことを考えてしまった自分が情けない。


「……すみません、最初に、説明すれば良かったです」

「もう、謝んないの。そりゃね、会って即腹を割って話すなんてできないよねえ。まぁでも、差し支えなければ聞かせて欲しいと思ってるよ。これは私の憶測なんだけど、体ごと、この世界に来てしまったんじゃないのかな?」


 事実通りの指摘に、はいと頷いてから気づく。ということは、つまり。


「もしかしてお二人は、意識だけがこちらに……?」

「そうだねえ。おそらくは、ね。今の私らは、あっちの自分とこっち側のキャラ設定、両方をハイブリッドした状態――みたいなんだよね」






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