8「……お前、何者だ」


 僕が今まで修復してきた施設は、壊れて機能しなくなったものばかりだった。『黒の森』は施設といっても森林なので、神殿や病院のように電気を通せば動くというものではない。

 鐘馗しょうきさんは『変質』と表現したけれど、単純な故障とは違うのかな。水源があって生産機能が生きているなら、壊れてないってことになるんだろうか。

 頭で考えても答えは出ないから、エディターボードから文字化け具合いを確認したほうが早いかも。


 ここまでずっと銀君と二人きりだったし、銀君は突っ込んだことを聞いてこなかったので失念していた。

 いつもの流れでポケットからスマートフォンを取り出し開こうとして、鐘馗しょうきさんと木花このはさんが驚いたように僕を見ていることに気づく。


「あー――それそれ! やっぱりスマホだよね!?」

 木花このはさんの言葉に、あっと思った時には、至近距離に鐘馗しょうきさんが迫っていた。

 しんそうぼうけんのんに光らせ眉を寄せた表情からは、さっきまでの穏やかで気遣わしげな様子が消え失せている。あ、僕、何かまずいことをしちゃったのかも――。


「……お前、何者だ」


 笑みの消えた口元から紡がれた低い声は、秘密ばかり抱えた僕への有罪宣告に思えた。場の空気が凍りついた、と思った次の瞬間。

 勢いよく何かが飛び込んで、ひどく鈍い音とともに鐘馗しょうきさんがよろめく。

 えっ、え、今の、木花このはさん?


 脇腹を押さえもんぜつする鐘馗しょうきさんの隣に木花このはさんが仁王立ちしていた。

 いっそう鮮やかさを増す梅紫の目と、笑顔ともかくともつかない口元。日本にいた頃にはおよそ目にしたことのないげきこう鐘馗しょうきさんに向けられたもので。


「言い方ァ! あんた、さっきは必死でこの子を助けようとしてたっしょーが! 何でそうなるわけ!?」

「イイ肘鉄、だ……木花このは、お前が仁王、だった、のか……」

「お黙りください。魔力乗せてない一撃なんて大したダメにならんでしょ」


 冷たく言い放つ木花このはさんの足元で、鐘馗しょうきさんはなんかすごく苦しげなんだけど、今のが、肘鉄……?


「あの、鐘馗しょうきさん、大丈夫ですか?」

「大丈夫。むしろ、今のがたい発言に対する罰としては軽いほうだから。フィジカル強化した上にエンチャント乗せた一撃でもなければ、この脳筋馬鹿には通らないから! こうくんは何一つ心配しなくていいからね?」




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