7「まずは、肉を食え」


「……自己申告の大丈夫は信用ならんのだが……まぁ、いい、ともに食事をすることで深まる信頼もあるだろう。まずは、肉を食え」

「論理の飛躍ぅ! 途中の思考説明ぶっ飛ばさないでください。中学生だって三段論法くらい使えますからね?」

「美味い物を食うと、まつなことなどどうでも良くならないか?」

「そこはちゃんと気にしましょうよ」


 ポンポン言い合いながらも、木花このはさんは焚き火の周りに棒を刺した肉の固まりを手際よく並べてゆく。

 慣れた様子と備えから、お二人が野営も視野に入れて来たことが察せられた。


「そういえば鐘馗しょうきさん、これどこで捌いてきたんです?」

「少し奥へ進んだところに沢があった。真水で濁りもなかったが、不自然ではあるな」

「そんな不自然な場所でしれっと処理してきたんですか……。まぁうん、でも、水場があるってことはやっぱり、ここアレでしょうね」

「……そうだな。どういう作用が働いて、変質したのかはわからないが」


 木花このはさんが塊肉の焼けた部分をケバブみたいに削ぎ落とし、小皿に盛って僕に「どうぞ」と手渡してくれた。肉が焼ける芳ばしい匂いに刺激されたのか、さっきまで全然なかった空腹感が一気に湧き上がる。

 お二人が話している内容は、なんとなく察しがついた。そこに気づくってことはやっぱり……お二人はプレイヤー知識を持ったままここにいるのだろう。気になることはいろいろあるけれど、どこから切り出したものかがやっぱり難しい。


 CWFけいふぁんは戦争ゲームであり、国造りゲームでもあった。

 国というコミュニティグループの中で国王と役職を持つ人たちがまとめ役となって国家方針を話し合い、どういう方向性で開発するかを決めて、それに沿った施設オブジェクトを配置し発展させていくという楽しみ方もあった。

 もっとも、戦争が起きて敗戦すれば国の発展状況も白紙化リセットされるので、それを回避しようとするあまり、役職を持つユーザーがリアルに負担を強いられる問題もあったのだけど。


 ゲーム性の良し悪しはさて置き、国で設置できる施設オブジェクトにはいろいろなタイプのものがあった。

 病院、神殿、記念碑などのような文字通りの施設。発電所、採掘場、取水場のような動力や資源に関わるもの。そして、森林、湖、農地、牧場など生産に関わる施設と。

 湖や森って普通は自然のものだけど、CWFけいふぁんの『黒の森』は薬草や木の実や果物、そして肉を生産する施設だ。


 つまり黒獣ブラックガルムがいるこの地域はかつての国家で、この枯れかけた森は『黒の森』が変質したものだろうと、鐘馗しょうきさんと木花このはさんは当たりをつけているわけだ。




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