4「もしかして遭難?」


 僕自身はこの世界――ケイオスワールドの住人ではない。

 生まれも育ちも日本人、ゲームと動画とSNSにはまっていたインドア系男子で、この春に入学したばかりの高校一年生だ。


 今から半年ほど前、僕がのめり込んでいたオンラインゲーム「Chaos World Fantasìa」がサービス終了を迎え、それから僕はゲーム世界の住人として世界の終わりを体感する夢を繰り返し見るようになった。

 それが実在化したCWFけいふぁん世界で、サービス終了により終焉の危機を迎えたけれど、僕が渡ることで世界を救えるかもしれない――そう教えてくれたのは、悪魔を名乗る龍神のひとだった。

 僕は今、かつてゲーム世界だったこのケイオスワールドに来ている。龍神のひとに破格の加護を貰ったので、怪我をしたり死亡する恐れはない、らしい。でも授けられた加護は防御特化だったので運動音痴は変わりなく、剣や魔法は使えないままだ。


 ここに来た直後、僕はハイエナの群れに襲われた。猛獣に取り囲まれて抵抗できず何度も噛みつかれた恐怖感と痛みがトラウマになったのか、以降は怖い思いをしたり危険な状況になるとすぐ意識を飛ばす癖がついてしまった。

 今回も気がつけば絡み合う枯れ木の隙間に引っかかっていて、銀君の姿はどこにもない。

 あれからどれくらい経ったのかもわからない。


「そうだ、スマートフォン……っ、なんか痛い」


 胸ポケットを確かめて慣れた重みに安心するも、体をひねった途端どこかに痛みが走った。今度は慎重に上体を起こしつつ辺りを見回してみる。

 鈍い痛みを感じるのは右足で、絡み合った枝に挟まれて動かせなくなってるらしい。うわぁどうしよう。


 襲いかかってきた何かは触手のようにも見えたけど、この様子だと動く木の根か太い蔓である可能性が高そうだ。

 目を凝らして辺りを見回せば、地割れした崖面からも植物の根らしきものが突き出ていた。遠目だから自信ないけど、動いてはいない。

 銀君は無事かな。僕の現状って、もしかして遭難?

 頑張れば脚を引っこ抜いて動けそうな気もするけど、それでバランスを崩し崖下へ転落したら最悪だ。せめて何とか、ここにいることを銀君に知らせたい。


 スマートフォンを胸ポケットから出してライトを起動する。発光部分を上方へ向け、トトトツーツーツートトトを実践してみた。

 文化が一部共通しているケイオスワールドならモールス信号だって通じるかもしれないし、通じないとしてもここに人が居るってサインになる。


 結果的に、それは功を奏した。

 僕のつたないSOSサインを見て救援に駆けつけてくれたのが、鐘馗しょうきさんと木花このはさんだったのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る