3「前はこんなんじゃなかった」


 砂漠の旅は距離感も時間感覚もあいまいなので、体感ではずっと前に思えるけど、スマートフォンの記録を見ればお二人と別れたのはほんの二日前だ。場所も、龍都からそれほど離れていない。

 出会いの切っ掛けがあったのは三日前で、あのとき僕と銀君の進む道を阻んだのは深く大きな地面の裂け目だった。


 旅の始まりとなった中央聖堂跡からここへきてんの龍都までは、直線距離にするならそれほど遠くない。

 でも世界がれきの砂漠と化し、街々も街道も崩れ落ちて廃墟になり、場所によっては地形すら変わって通れなくなって……僕と銀君は遠回りしながらここまで来た。

 翼ある魔狼の姿に変身できる銀君は少しの障害ならひとっ飛びできるから、運動音痴の僕が足を引っ張ってしまったとも言える。


 裂け目は底が見えない深さではないけど、地形が岩石砂漠に近くて高低差もあり、万が一落ちたら這い上がれそうにない。しかも周囲には木々が絡み合うように立ち枯れていて、飛び越えるにも結構な高さが必要だった。

 僕を乗せて飛ぶには危険すぎるため、無理に上空を行くのではなく回り道して安全な進路を探すことにする。


「でも不思議だなぁ。前に僕が通ったときにはこんなんじゃなかったのに」

「前って、いつぐらい?」

「こーやんと会う前だから、半月くらいかな。元から岩の多い地形だったけど、でかい地震があったってこともないし、何だろね」


 口調は軽くても、真紅の両目は細められていて真剣に何かを考えているふうで。思えばあの時すでに銀君は、原因となるものを想起していたに違いなかった。


「いったん引き返す?」

「うーん、どうしよっか。地割れに沿って少し歩いてみて、ずっと続いてそうなら引き返すのもありかもねー」


 などと喋りながら歩き出した僕らの前に、突然うねる何者かが飛び出した。同時に足元が激しく揺れ、僕はあっさりバランスを崩してお約束のように足を踏み外し。


「うわぁ!?」

「こーやん!」


 銀君が差し伸べてくれた手も掴み損ねて、地割れへ転落したのだった。



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