第31話 ウエディングドレスと運動会
〈おばあちゃん〉に手伝ってもらい、私は純白のウエディングドレスに身を
フリーマーケットアプリで中古を
一回しか使わない物にお金をかけたく無いと、割り切っていたはずなのに。
フリーマーケットアプリのお相手さんが、小物も全て譲ってくれたのに、何を今さら私はほざいているのだろう。
お相手さんはサイズの確認でやり取りをしていた時に、私が両親を亡くした事を知り小物をただで全てつけてくれた、ふんわりとしたミディアムのベールは新品にしか見えないよ。
バージンロードを一緒に歩くお父さんが洋装か和服かを聞かれた時に、〈おばあちゃん〉と歩くと返事をしたら、私の事情を
とても感謝しているのに、幸せな結婚生活の最初を
「とても綺麗だ、たまんないよ」
綺麗と褒めて貰って嬉しいけど、私の胸の谷間へ手を入れたわね。
「ちょっと、汚れてしまうでしょう」
私がドレスの汚れでこれほど悩んでいるのに、何をしてくれるの、私が怒ったのは当然だわ。
ただ私の胸が気になるのは不快でもないな、私に夢中なのかと
私はとうとう、バージンロードを〈おばあちゃん〉と歩いている、手には〈おばあちゃん〉が心を込めて作ってくれたブーケがこれでもかと咲き誇っている。
〈おばあちゃん〉との思い出が頭の中へ
どんな思い出が生まれるのかな、期待に胸が震えるよ。
だけど申し訳ないと暗くもなってしまう。
〈クズ〉に処女を奪われてしまったんだ、私はバージンロードを歩く資格を持っていないかも知れない、心の中で〈ごめんなさい〉と手を合わして彼に謝ることしか出来ない。
〈武藤牧師〉が私に「おめでとう」と祝福を下さって、〈おばあちゃん〉に「立派に責任を果たされましたね」と
涙が止められない。
私は両親を亡くしたけど、〈おばあちゃん〉も一人息子とお嫁さんを突然失くしたんだ、その喪失感と幼い私を一人切りで育てる重圧は、
私と同じように〈おばあちゃん〉も、私との思い出が心に溢れてきてしまったのだろう。
私を嫁に出すと言う責任を無事果して、胸へ込み上げてくるものを抑えられなくなってしまったんだと思う。
だけどね。
私はお嫁さんになったけど、〈おばあちゃん〉の孫は止めないよ。
ううん、孫じゃない、私は〈おばあちゃん〉の娘なんだ。
「ぶぁい、ぢかいまず」
私も涙が
泣き止むことなんか出来るはずがない。
だけど私は必死に誓いの言葉を絞り出した、心からの誓いだから、きっと神様に届くはず。
指輪交換になったので、私はグローブを外して彼に左手を差し出した。
だけど「あ゛、あ゛」違う。そっちの指じゃない。
〈婚約指輪に重ねてね〉と三回は言ったはずだ、なのにコイツは私の言ったことを何にも聞いて無かったんだ、絶対に許さない。
怒りのあまり婚約指輪を
結果的にそれが功を奏して、彼が指輪を薬指に嵌めてくれた、初めからそうすれば良いのに、少し
婚約指輪と結婚指輪が重なりあい、彼の愛も二重になっている、うっとりとするしかないわ。
そう思うと私はまた泣けてくる、彼の愛が私の指で二つも輝いているんだもん。
彼がベールを上げて私に口づけをしてくれたけど、頬を舐められたような気もする、私がさっき怒りをあらわにしたから少し混乱したのかな。
唇同士も触れたから、良しとしましょう、今はガッツリとする場面じゃないからね。
私も〈おばあちゃん〉も泣きっぱなしの式だったけど、式が終わり外へ出ると、また泣かされてしまった。
「〈美幸〉ちゃん、幸せにおなりよ」
「良くここまで立派にお育てになりましたね。 尊敬します」
「嬉し涙は良いけど、悲しい涙はもう流してはいけないよ」
「お疲れ様です。 これで肩の
ご近所の人やお世話になった人が、私の結婚式に駆けつけくれたんだ。
お隣のお米さんと桜子さんが手を振ってくれている。
お向かいの松太郎おじいちゃんも笑っているよ。
斜め前のお菊さんは車椅子で来てくれたんだ。
洋館のマダムはロングドレスで今日もお
他にも大勢、私を祝いに来てくれたんだ。
お礼が言いたくて声を出そうとするけど、大量の涙が詰まって声になってくれない。
私と〈おばあちゃん〉は、泣きながら頭を深く下げることしか出来ない、声が出せない分心から下げよう。
「〈美幸〉ちゃん、おめでとう。 万歳」
万歳三唱が始まってしまった、こんなことになるなんて、あっけに取られてしまうよ。
それほど私の結婚式はお目出度いことなの、だけど隣に彼がいない事にようやく気がついた、私の横にいるのはもう〈あなた〉なのに。
涙で
だけど彼の気持ちは良く分かる、今は望まれていないことを敏感に感じ取ったのだろう。
ご近所さん達は、私と〈おばあちゃん〉を祝いに来てくれているんだ、私を嫁に出す気持ちでいるんだと思う、顔も知らない彼は対象じゃないんだ。
私が〈おばあちゃん〉と暮らした家を出て、
花嫁の見送りだから、新郎は必要とされていない、ご近所さんには見知らぬ誰かなんだろう。
私にも覚えがある。
小学校の運動会には、〈おばあちゃん〉は必ず私の応援に来てくれた。
だけど写真までは撮ってはくれなかったな。
朝早く起きてお弁当を作ってくれただけで十分だ、テントの下で私へ手を振ってくれるだけで嬉しかったよ。
私はその写真へ写らないように隅の方にいつもいたと思う、だって私を写すために撮っているんじゃないから。
私は邪魔な存在だったんだ。
運動会の時の他の子のように、今の私は主役にして貰っているけど、隅にいる人のことを片時も忘れたりはしない。
それはあの日の私でもあるし、私の愛する〈あなた〉だから当たり前だね。
あの日の私みたいに、〈あなた〉はひがまなくても良いんだよ、今晩から私は〈あなた〉の腕に抱かれて眠るの、
〈あなた〉が私を邪魔だと言っても、決して私は〈あなた〉を邪魔にしないと誓うわ。
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