第30話 下着とプロポーズ

 「甘いデザートがほしいな」


 私は直ぐ横にいる彼に抱きしめられてしまった。


 「デザートって私のことなの。 そんなのエッチな言い方だよ」


 中年オヤジじゃないんだから、そんな古くて下品な言い方は止めてよ。


 でも彼に抱きしめられて求められたら、想いをかなえてあげたくなってしまう、私の想いもほとんど一緒なんだ。

 釣り合っているかはかなりの疑問だけど、へへっ、私を指輪のご褒美にしちゃえ。


 「好きにしたら良いでしょう。 でもシャワーは浴びさせてよ」


 私の想いは彼に無視をされた、シャワーを浴びないまま、彼に抱かれてしまったんだ。

 汗の匂いや他の匂いも、何も洗い流せていないよ、あぁ、顔を近づけられたら匂いがしちゃう、でも彼の口づけが私をダメにする。

 もっと私の匂いを彼にり込んでしまえと、体の奥が思ってしまうよ。


 今日の下着はセクシーな黒だ。


 彼に見て欲しいからつけてきたんだけど、私の体を舐めるように見ている彼が少し怖くなってくる、その彼を見て喜んでいる自分がもっと怖い。

 恋人なら、婚約者だから普通のことかもしれないが、私は変わったと強く感じてしまうよ。


 「穴が開くほど見詰めないでよ。 もしかしたらと思っただけなんだから」


 私は何を言っているんだろう、でもセクシーな黒をつけてきて、その気は無いと言っても無理があるよね。

 どうでも良い事を考えているうちに、黒の下着を剥ぎとられ、体中に口づけをされてしまう。

 彼は甘く噛んでもきた。


 もう何にも考えられなくなった私に、彼は「好きだよ」「愛しているよ」と言うんだよ。

 私は彼に強く抱き着いて、「好きです」「愛している」と泣きそうになりながら返すしかない。


 ずっと言ってほしかった言葉なんだ。

 ずっと言ってほしかった気持ちなんだ。

 私は幸せの絶頂に辿たどりついたんだ。


 彼に抱きしめられながら、私は気怠けだるい心地よさに身をまかしている。

 ずっとこうしていたい。


 「〈美幸〉、送っていくよ」


 「いやだ、帰りたくない。 このままじゃダメ」


 お願い、このまま私を抱きしめていてよ、〈あなた〉と離れたくないの。


 「〈おばあちゃん〉が待っているぞ」


 そうよね、〈おばあちゃん〉に心配をかけさせてはいけない。

 外泊するって言ってきたら良かったかな、でもそれは、男女の行為をしてきますって事だから、あからさま過ぎてやっぱり言えないよ。

 大人しく帰ることにしよう。



 私達の結婚が正式に決まってからは、飛ぶように時間が過ぎていく。

 目が回りそうだよ。


 指輪を彼に嵌めて貰う時に、彼がプロポーズをしてくれた。

 結婚は決まっていたけど、プロポーズが無かったから、とても寂しい想いをしていたんだ。


 「〈美幸〉とずっと一緒にいたい」


 「はい。 私は〈あなた〉と未来永劫みらいえいごう一緒にいます」


 彼の言葉は簡単な言葉だけど、私にはとても重い言葉だ。

 一生この言葉を、胸に秘めて生きて行こうと決めた。

 私の大切な宝物が出来たんだ。


 私は彼に思わず抱き着いてしまった、自分から抱き着くのは初めてだけど、我慢が出来はずがない、〈あなた〉を愛しているわ。


 口づけの後に脱がされたら、今日の私はスカイブルーをまとっている。

 どこまでも続く青い空が、私の心に寄り添ってくれている、澄み切った空を私はどこまでも昇っていけそう。


 終わった後にお風呂に入ったのだけど、彼が私の体をいやらしく撫で回してくるんだ。

 残りのこりび状態の私は、彼の大きな手に逆らえない、こばむことなんか初めから浮かんでもこない。


 「こんなの、溺れてしまうわ」


 結婚して毎日こんなことをされたら、その事しか考えられなくなってしまいそう、とっても困るわ。



 彼を写真の前撮りや教会での打ち合わせだとかで、拘束こうそくしていると、かなり機嫌が悪そうに見えてくる。

 興味無さげな顔で、私が話しかけても素っ気そっけない返事しか返してこない。


 〈あなと〉の結婚式でもあるのよ、少しでも良い式にしたくないのと、かなりムッとしそうになる。


 ただ今はそれ以上に幸せだから、彼のねた唇が可愛くて、つい口づけをしてしまった。

 ちょっぴり怒りを含んだ肩を、き取るようにぜてあげよう。


 彼が私の顔を「えっ」て感じで見てくる、吃驚びっくりしたんだろう口を半開きしているのが、まるで少年が初めて空にかかる虹を見た時のようだ。

 愛しくて、微笑みながら私は彼へもう一度口づけをするしかない、だって拗ねた少年が私の口づけで驚愕きょうがくの顔に変わるのよ、私はおしゃまな少女になるしかないじゃないの。



 〈おばあちゃん〉とよく相談して、披露宴は行わない方向で彼へ打診をしたところ、拍子抜ひょうしぬけするくらい簡単に賛成だと言われた。


 私に友達がいない事と、付き合いのある親戚もいない事を、彼が自分の事のように理解してくれたんだ。

 私を取り巻いている事情を呑み込んで、共感してくれたことに感謝しかないよ。


 でも私の経済状況を心配するあまり、新婚旅行もしないと言われてしまったのは、かなりショックだな。

 披露宴は行わないと言った手前、新婚旅行には行きたいとは言えないよ。

 お金もかかるしお休みもとる必要はあるけれど、本当はすごく行きたかったんだ、〈あなた〉との旅はどう考えてもきらめいたものしかならない。


 〈おばあちゃん〉にも〈これはその費用にてておくれ〉とお金を貰っていたのに、悲しくなってしまう。

 ただ彼と旅に行けなくなった訳じゃない、生活が落ち着いたら可愛くおねだりしてみよう。



 いよいよ結婚式の当日だ、緊張するな。


 私は朝早く起きて、お掃除と洗濯を済ませた。

 朝早く起きたとは違うか、興奮しているのかまるで眠れなかったんだ、お掃除と洗濯はいつもの作業で自分を平常心に戻そうとしたのだと思う。


 新居になる彼のアパート持って行く服を、もう一度確認しておこう、彼のアパートの収納スペースはかなり少ないから、全ては持って行けない。

 新しい服を選んで持って行くのだが、下着がすごく派手な物になっていることに、改めて自分でも呆れてしまう。


 〈美幸〉さんよ、あんた何時から色狂いになったんだ、いいえ、私は純な乙女よ、今日バージンロードを歩くんだから変な言いがかりはよしてよ。


 通販で買った太ももまであるボディスーツもあるんだよ。

 ベージュでハードな補正下着だから、鉄壁な防御力を誇っているんだから。

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