第16話 スポンジとバスタオル

 小学生以降、ずっとミニスカートを履いたことが無かった私は、ミニスカートの特性をよく理解していなかったんだと思う。


 一生懸命にシンクをゴシゴシしていたら、背中から彼に抱きしめられてしまった。

 〈きゃー〉と言う悲鳴を何とかみ込んで、私はスポンジを握りしめたまま、その場で硬直してしまう。

 不意打ふいうちだったんだ、今じゃないと思っていたんだ、胸がバクンバクンして動くことができない。


 「ひゃぁ、お掃除が終わるまで、口づけは待ってよ」


 こう言うのが精一杯だった。

 口づけはそりゃ期待していましたよ、でもね、スポンジを持ったままでは嫌なんです。


 「もう待てないよ。 〈美幸〉がお尻を振って誘うのがいけなんだ」


 あっ、私は今日ミニスカートを履いているんだ。

 えっ、まさか下着が見えていたの、それにゴシゴシとしていたから、下着だけのお尻も動いていたんだ。


 嘘だ。

 恥ずかしくって、泣いちゃいそうになってしまう。


 せめて私が誘ったとは思われたくない、それじゃ痴女ちじょとあんまり変わらないよ。

 誤解をく必要があるわ。


 「えぇー、誘って…… 」 


 私が弁解をしようとするのを、彼からの口づけでふせがれてしまった。


 私は逃れようと彼の胸を手で押したけど、自分でも吃驚するくらい弱弱しい力だ。

 心の奥では待っていたくせに、純情ぶって思いもよらなかったと、弱い言い訳をしただけなんだ。


 取ってつけたような弱い言い訳は、彼に見抜みぬかれているのだろう、彼は私の唇をなぞったり舌で触ってきた。

 うわぁ、恋人同士の口づけだよ、ふぁ、唇がしびれるような感じなっている、はぁん、かすみがかかったように頭がぼーっとしてくる。


 もう止めてよ、胸が苦しいの。


 でも彼は止めてはくれなかった。

 それどころか、私の口の中へ舌を差し入れてくる。

 そんなの、普通の口づけじゃない、男と女がするものだよ。

 彼の舌が私を女に変えようと、口の中でうごめいている。


 私はそれを嫌がるどころか、自分の舌を使って受け入れてしまっているよ。

 私の体は、好きな人に口の中を舌でで回されて、すごく喜んでいるんだ。

 カアッと体が火照ほてり、「んん」「んふ」と甘い声まで出してしまっている。


 彼の熱い股間をお腹に押し付けられていることも、私を嬉しくさせてしまう。

 あぁ、この人は私を欲しいって思っているんだ。


 でもね。

 台所では嫌だ。

 ここはそんな場所じゃないし、私は掃除中で手を洗ってさえいない。


 あっ、胸を触られた。


 ちょっと待ってよ。

 〈あなた〉に触られるのは嫌じゃないけど、私にも事情ってものがあるの。


 私は彼をとがめるように見たと思う。

 私が心から同意出来る時間を、少しでも良いから与えてほしいと願ったんだ。


 だから私は、おトイレに行きたいと言って逃げることにした。

 おトイレを理由にしたのは、どうだったかな、恥ずかしい理由だったな。

 でも他に思いつかなかった。


 私はトイレの中に入って最初に思ったのは、結構綺麗に掃除がしてあるし、かなり広いなと言うことだ。

 こんな状況なのに、自分でもこんなに余裕があるのは不思議だと思う。


 クズに命令をされて初めたことだが、たぶん私は、自分の意思で今日彼に抱かれに来たんだ。

 クズに処女を奪われてしまったのだから、私の貞操ていそうは必死になって守るほどのものじゃ無くなっている。


 好きになった人に抱かれるのは、ごく自然のことだ、会社の先輩や同僚もそうしているのが、会話の端々はしばしから私でも分かってしまう。

 皆、それを誇らしげに幸せそうに漏らしている、他の女に聞かせたいのだろう。


 私は漏らしたりはしないけど、誇らしいのと幸せなのが、今は良く分かる。

 彼は女としての私を欲してくれているんだ、私をブスで陰気な性格だとは思っていないはず、それに応えるのがどうしていけないの。

 彼に体を与えることにより、もっと私を好きになってくれたら、こんなに嬉しいことはないよ。


 「シャワーを浴びたいです」


 私は彼に抱かれる覚悟を決めて、今シャワーを浴びている。

 ぐちゃぐちゃと理屈じみたことを考えていたけど、いざ迫ってくると、恥ずかしくて怖くて足が震えてしまう。

 彼にどう思われるかが怖いんだよ。


 私は泣きそうになりながらも、体の隅々すみずみまで洗うしかない。


 私のバスタオル一枚の姿を、彼が怖いような目で見たことに、少し衝撃を受けている。

 あれは男の目だと思う、雄の目と言っても良いのかもしれない。

 こらから彼にされることを想像すると、体がガチガチになってしまった。

 私はどうしたら良いのだろう、途方とほうにくれるよ。


 彼が私をまるでお姫様のように、抱き上げてくれた、思ったより力があるのね。

 そう考えているくせに、私はまた純情ぶって、甘えたような声を出してしまう。


 「ひゃう、怖いです」


 これはしょうがないんだ、これは私の女の部分がしていることで、大部分の私はビッて固まってしまっている。


 〈きゃー〉、頼みのバスタオルがぎとられてしまう。

 〈待ってよ〉と言う前に、口づけをされてしまった。

 その後は、胸をまれて色んな所をさわられてしまっている。

 当たり前だけど、クズとはまるっきり違ったものだ。 

 拷問ごうもんではない、愛のある行為こういなんだ。 

 

 彼に体を触られると、クズに触られた部分が、しっかりと浄化されていく。

 彼に体を舐められると、クズに舐められた部分が、根っこから清められていく。


 今改めて思う、心と体は繋がっているんだ、私の体は彼に抱かれて、こんなにも喜びにあふれている。

 私の心は彼を求めて、恥ずかしいほど開いているわ。


 好きな人に抱かれるのは、こんなにも違うんだ、天上の月と腐った泥ほどとうとさが違っているよ。


 「んんう、そんなとこ舐めないで」

 「はぅぅ、変になっちゃうよ」


 私の女の部分がいている言葉だ、嘘じゃないけど、本当でもない。


 もっと舐めてほしいと思っているし、もう恥ずかしいから止めてとも思っている。

 今以上に気持ち良くしてほしいと思っているし、今以上に気持ち良くなるのは怖いとも思っている。


 自分の体が彼の愛撫で反応しているから、演技でもないんだけど、顔を両手で覆ってしまう。

 顔を見られるのが嫌なのは本当だよ、でも情欲をむさぼる女には見られたく無いのが勝っている。


 〈あなた〉の手と舌が悪いんだ、私を狂わせようとしている、私の好きな人の一部なんだもん。

 あぁぁ、私の体の奥が、今浄化されて清められて、いく。


 心の奥底までかれて、私の体があなたの形に変えられてしまった。

 私は隅々すみずみまで、あなたの女になったのね。


 「気持ちが良かったよ」

 「私は〈あなた〉と一つになれたのが、とっても嬉しいんだよ」


 気持ちが良かったと言われるのは、女としてはとても誇らしいけど、今は〈あなた〉が私の男になり、私が〈あなた〉の女になったことが、何よりも嬉しい。


 この優しい口づけを一生してほしいな。


 帰りの二人乗りは、彼に短パンを借りたので、両手でしっかりと抱き着いた。

 ほれほれ、今度は両方の胸だよ、もう見たし触ったあの胸だよ、これが欲しいのなら私が引っ付いても絶対に邪魔だと言わないでね。


 「早く私を連れていってよ」


 クズの手の届かない所へ、〈あなた〉なら連れていってくれますね。


 「大きな背中が頼もしいのよ」


 私が頼れるのは〈あなた〉しかいないの、どうかお願いします。



 夜も遅いのに彼は私を家まで送ってくれた。

 なんて優しいのと思ってしまう。


 別れる前に、すごく情熱的な口づけをされてしまった。

 頭が酸素不足でクラクラして、心が愛情過多で消化できないくらい、激しかった。


 どうしてくれるんですか、夢の中に〈あなた〉が出てきてしまうよ。

 私にとんでもない、いやらしいことをするんでしょう。


 もう許しません。


 クズに乱暴されて裸の動画で脅されてはいるけど、私と〈あなた〉は女と男の関係になったのだから、どうか責任をとってください。


 私の出来ることは、お弁当でもお掃除でもああいう事でも、それ以上でも〈あなた〉なら何でもしますから、どうかお願いいたします。

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