第13話 シャワーと唇

 シンクを掃除している〈美幸〉の背後へ回り、俺は後ろから抱きしめた。


 「ひゃぁ、お掃除が終わるまで、口づけは待ってよ」


 「もう待てないよ。 〈美幸〉がお尻を振って誘うのがいけなんだ」


 「えぇー、誘って…… 」


 俺はまだ何かを言おうとしている〈美幸〉の唇を、自分の唇でふさぐことにした、男と女が抱き合っているんだ、言い訳はもう必要ないはずだろう。


 舌を入れようとすると、〈美幸〉は歯を閉じて抵抗していたけど、唇を吸ったりはさんだりしているうちに、ゆるんで中へ差し入れることが出来た。

 そのまま舌で口の中を愛撫あいぶしていると、〈美幸〉の体がじんわりと熱くなり、「んん」「んふ」と切なそうな声が出始める。


 自分では分からないけど、俺の体も熱くなっていると思う、一部は特に灼熱しゃくねつのはずだ。

 俺の熱々のリビドーを〈美幸〉に押し付けてやれ。


 服の上から胸を触った時に、〈美幸〉は〈ガアッ〉と目を見開いて、俺を〈ぐわぁ〉と見据みすえてきた。

 うわぁ、怖い、目が怖いよ。


 盛り上がっている最中に、なんて目で俺を見るんだ。

 胸の触り方が気にさわったのか。


 「ち、ちょっと待ってください。 お、おトイレに行きたいです」


 〈美幸〉は俺の腕からスルリと抜け出して、トイレに駆け込んでしまった。


 うーん、あの慌てようは、本当にトイレへ行きたかった可能性が高いな。

 俺も経験があるが、生理現象じゃしょうがない、〈出物腫物ところ選ばず〉だな。


 俺も寝室じゃなくて、台所でれたから所を選んでいないのかな、ははっ。

 軽蔑けいべるされほどバカで、センスが壊滅しているぞ。


 しばらくして、〈美幸〉がトイレから出てきた。

 続きをするのか、どうしよう、少し熱が冷めてしまったぞ。


 「うぅ、あ、汗をかきましたから、シ、シャワーを浴びたいです」


 「おっ、良いよ。古くて悪いけどバスタオルを出しておくよ」


 〈美幸〉はフラフラと浴室の方へ歩いていった。

 俺は押し入れのプラッチックボックスから、まだマシなバスタオルを出して浴室の扉にかけたのだけど、〈美幸〉は着替えをどうするのだろう。


 はっ、野暮やぼなことを考えても、なんにもならない。

 〈美幸〉は俺に抱かれようとしているに、決まっているじゃないか。

 そのための、シャワーだろう。


 何だかドキドキしてきたぞ。

 俺もシャワーを浴びなきゃな、もう一枚バスタオルを出しておこう。


 〈美幸〉は浴室からバスタオル一枚の姿で、真っ赤になってフラフラと出てきた。

 俺はその姿をちょっと見た後、大急ぎでシャワーを浴びにいく。


 「俺も浴びるよ。 直ぐに終わるから、待っててくれ」


 〈美幸〉のおっぱいの盛り上がりと、白くてムチムチの太ももに、少し冷めた情欲が再び燃え上がって、痛いくらいだ。


 うつむいて立ち尽くしている、〈美幸〉をお姫様のように抱き上げて、寝室のベッドに向かう。


 「ひゃう、怖いです」


 「心配するな」


 適当なことを答えてみるが、俺はこの時、脳内から騙されていることが抜け落ちてしまっていたと思う。

 脳が性欲に支配されているためだ、男ってバカでスケベなんだよ。


 抱き上げた拍子ひょうしにバスタオルがめくれて、〈美幸〉の股間のかげりが見えている気がするけど、後でじっくりと見るのだから今は寝室へ急ぐんだ。


 ベッドの上の〈美幸〉は、初々ういういしい反応を見せている。

 俺が触ると「ううん、そんな」「はぁぁ、そんなとこ触っちゃ嫌だ」と体をピクンピクンさせるんだ。

 俺が舐めると、「んんう、そんなとこ舐めないで」「はぅぅ、変になっちゃうよ」と体をウネウネと動かすんだ。


 経験が少なくて恥ずかしいを表す演技で、顔を両手で覆っているのが、真実のように思えてしまう。


 俺は演技に乗ったと言うよりも、本当だと勘違いしたのだろう、痛くならないように愛撫に時間をかけてあげた。

 だけどかなり痛がっていた、迫真過ぎて俺は動きを止めたくらいだ。


 「うぅ、私は大丈夫だから、動いて良いよ」


 許しが出たので動いたのだけど、きつくてもう持たなそうだ。

 〈美幸〉はそうでもないと思うが、俺は気持ち良くて直ぐに果ててしまった。


 うーん、ちょっと興奮し過ぎたな、今度はもっと冷静になって持たせよう。


 「気持ちが良かったよ」


 「ふふ、私は〈あなた〉と一つになれたのが、とっても嬉しいんだよ」


 俺は〈美幸〉が愛しくなってしまい、裸のまま優しくキスをして、つややかな髪をぜてあげる。

 〈美幸〉は嬉し泣きなのか涙を流し始めたので、俺はこんな名女優と結婚生活が試せるのなら、騙されるのも有りかと思ってしまった。


 要は騙されているのが分かっていながら、好きになってしまったのだろう。

 良くないこととは、分かってはいるのだけど、しょうがないじゃないか。


 だって、スケベでバカなんだ。



 夜も遅くなっている事を「あっ」と二人とも気づいたため、大急ぎで着替えて、自転車の二人乗りで駅へ向かった。


 往きと違って〈美幸〉は、自転車にまたがって俺の背中に、ギュッと抱き着いている。

 ミニスカートがひらめいて、白い太ももは見えているけど、ピンク色の下着は見えていない。

 俺が貸した、こげ茶色の短パンが見えているだけだ。


 「うふふ、もっと早くいでね。 早く私を連れていってよ」


 「うぅ、頑張って漕いでいるんだ。 あんまり無茶を言うなよ」


 「あはは、でも風がすごく気持ちいいの。 〈あなた〉の大きな背中が頼もしいのよ」


 俺は〈美幸〉を家まで送ったけど、古びた街灯の下で帰ることにした。

 〈美幸〉を抱いた直後に、〈おばあちゃん〉と顔を合わせるのが、かなり気まずかったんだ。

 気づかれて何か言われたら、上手く《うま》かわせる気がしない。


 街灯の下で別れる時に、〈美幸〉が俺の腕の中へもぐり込んできたから、またキスをしてしまった。

 それも舌を入れる本格的なヤツだ。


 〈美幸〉は唇を色っぽく半開きにして、俺のキスを長く受け入れてくれた。


 古ぼけた街灯に照らされている〈美幸〉は、お化粧をしているのに、抱いたばかりなのに、とても素朴そぼくで純真に見える。

 抱きしめるのを止めて、俺から離れて行く時に見せた顔が、胸を締め付けられるような寂しさに包まれていた。


 俺がそう思っているのかも知れないな。

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