第6話「口裂け女」

 翌日、仁平は澄香と共に登校していた。

 前日の激しい特訓の疲れが癒えず、体中が悲鳴をあげている。

 「大丈夫?」

 澄香が心配し、仁平の顔を覗き込む。

 仁平は少し照れ、顔を逸らす。

 「なんでもねーよ」

 「そ。」

 しばらくの間、2人は沈黙していた。

 「あ、そういえば。昨日の妖怪特集の番組見た?」

 澄香は大のオカルト好きなのだ。

 特に心霊の類が好きで、心霊について話す彼女の目はいつもキラキラしている。

 仁平はそんな澄香の目が少し好きだった。

 「いや、見てないな」

 「ふーん、すごかったんだよ!特に口裂け女がすっごい怖くてね……」

 忍になると決め、少ししか時間がたっていないが忍法の修行と並行して妖怪の勉強もした方がいいだろうなと思いながら澄香が楽しそうに話をするのを聞いていた。

 校門の前に着くとそこには仁平の学校の制服を着た雅也が立っていた。

 「木下お前、なんでここにいんだよ」

 雅也はわざとらしく口角をあげ、言う。

 「俺が通っている学校なんだ。悪いか?」

 すると雅也はいきなり仁平の肩を組み、澄香に笑顔で優しく話しかけた。

 「ちょっと、こいつ借りるよ」

 そういうと仁平は体育館裏まで引っ張られた。

 体育館裏は日陰になっており、少し涼しかった。

 「痛えじゃねえか。いきなり、なにすんだよ!」

 仁平は首にかけられた雅也の腕を引きはがす。

 「ふん、言葉遣いには気を付けろ。俺は、お前の1つ上の先輩だ」

 雅也は先輩という部分を強調し、皮肉を込めたように言う。

 その態度にイラっときた仁平はさらに強い口調で言う。

 「知らねえよ!先輩とか!それで何の用なんだよ!」

 「弱い犬ほどよく吠えるっていうだろ。お前を見てたらすごく納得したよ」

 仁平の怒りは最高潮に達していた。

 「何が言いてえんだよ!」

 仁平とは対照的に冷静な口調で言う。

 「うるせーよ。弱い犬」

 仁平は相変わらず我を失っているように吠える。

 雅也はスマホを取り出し、ある1枚の写真を見せる。

 そこには大きなマスクで口を覆った思わずうっとりするような美貌を持った女の写真が映し出されていた。

 きっとこのマスクを外した顔もとっても美人なんだろうなと仁平はふと思った。

 「なんだよ。これ」

 「先週からこの辺りで報告されている妖怪だ」

 仁平は少し身構える。

 「いわゆる口裂け女だ。私、きれい?って聞いてくるやつだ」

 「あー、そういえば朝、澄香が言ってたかも」

 「澄香?あの朝の女か」

 「ああ、俺の幼馴染でな。心霊系のオカルトが好きなんだ」

 なるほどと、雅也はにやにやしながら顎を触る。

 「それで、そいつが一体何なんだよ。その口裂け女とやらは」

 仁平の言葉で我に返った雅也は質問に答える。

 「さっき言ったようにこいつは私きれい?と聞いてくる。その時にきれいって答えるとじゃあこれでも!?とマスクをずらしながら言う。そのマスクの下は耳まで届くほど裂けた口を見せてくるらしい。」

 想像しただけでも恐ろしくなった仁平は固唾をのみながら言う。

 「それで?」

 雅也はそんな仁平の様子を滑稽に感じ、おびえさせるように声を大きくしていう。

 「そいつも口を裂かれちまうのさ!!」

 その勢いに仁平は思わずしりもちをついてしまう。

 その様子にフッと嘲笑し、落ち着いた様子で話を続ける。

 「被害者は4人。1日1人に危害を加えている。被害者はどれも若い女ばかりだ。しかもかなり顔の整ったな……」

 「なんだか、悪趣味な奴だな」

 仁平は眉を細めながら言う。

 雅也は仁平の耳元でささやく。

 「なあ、あの澄香とかいう女、一般的な女より顔が整ってるよな」

 仁平は嫌悪感を露わにし、雅也を睨みつける。

 「何が言いたい」

 「これは提案だ。あの女をおとりにして口裂け女をおびき寄せる。どうだ理に適っているだろう」

 雅也は口を不気味にゆがめながら言った。

 

 

 


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