第5話「応!」

 「まずはお前の忍術は何だ」

 2人は雅也いわくこの家で一番広い庭という場所で向かい合っていた。

 「何だよ。忍術って」

 はああとわざとらしく大きなため息をつき、仁平に説明を始める。

 「原則、各忍にある特殊な能力だ。基本的にこれがあるかないかで大きく違う。だが、お前は自分の忍術を認識していないだろうから。忍法メインの修行を始める」

 「忍法?」

 「誰でも使える忍術のようなものだ。お前のジジイは忍術が使えない。だが、現代最強の忍と言われるゆえんはそこにある。誰よりも忍法を極める努力をし、体をきたえた。」

 その話を聞いて、仁平は少し雷蔵に尊敬の念を抱いた。

 雅也は人差し指と中指を立てるとボソッと呟いた。

 「忍法・分身の術」

 その瞬間、雅也は2人に分裂した。

 一瞬、自分の目を疑ったがこれは現実だ。

 「これが忍法だ」

 雅也はそう言うと、仁平のもとに巻物を転がした。

 「それは忍法の中でも特に簡単と言われる火遁の術の秘伝書だ。忍法の習得はここから始まる」

 そういわれた仁平は巻物を開いた。

 すると、そこには火遁の術の詳しいやり方が記してあった。

 「火遁の術は万物の始まりである炎を操る忍法であり……」

 仁平は秘伝書の中身をゆっくりと音読するのだった。


 服部家の一室、雷蔵と鎌田が話をしている。

 雷蔵が指を鳴らすとくわえていた葉巻の先端が燃え始めた。

 葉巻の煙を十分に吐くと鎌田に問いかけた。

 「昨日、仁平が遭遇したという子泣き爺は元人間らしいな」

 鎌田は1枚の写真を雷蔵に見せる。

 そこには四肢が崩れた五十嵐の死体が写っていた。

 「ええ、妖怪というのは妖力と呼ばれるエネルギーの集合体です。ですので普通、倒した後はその体は崩壊し、自然界へと発散されるはずです。しかし、昨日の子泣き爺は倒されてから何時間たっても妖力の発散は起こりましたが身体の崩壊は起こりませんでした。そこで残ったのはこの男の死体だけとの事です」

 雷蔵は葉巻を灰皿に強く押し付け、強い口調で言った。

 「奴らめ……ナメた真似しやがって」

 鎌田は眼鏡を人差し指で眼鏡をあげ、落ち着いた口調で報告を続ける。

 「先月から報告されているこの妖怪化の現象、彼らから感知される妖力はいつも同じです。つまり、これらを引き起こしているのは同一の妖怪という可能性が高いです」

 雷蔵はフッと笑いさらに続ける。

 「ちなみにそのことはもう雅也には伝えたのか?」

 「いえ、まだです」

 「そうか……ならばあいつには伝えるな。今、忍をやめてもらっては困るからな」

 「わかりました」

 そういうと鎌田は部屋を後にした。

 

 「うおー!手から炎があああ!!」

 秘伝書を読み込んだ仁平は実践の段階へと移行していた。

 「いや……すごいな。さすがあのクソジジイの孫というべきか……」

 雅也は仁平の呑み込みの早さに驚嘆し、ボソッと呟いた。

 しかし、その炎はすぐに消え、仁平は鼻から血を流し倒れた。

 「う……うう。急に体が……」

 倒れた仁平を見下しながら言う。

 「あたりまえだろ。忍法で一番大事なのはイメージすること。つまりずっと、使い続けていたら脳の疲労で鼻血出してぶっ倒れる。だが、初心者にしては上出来だ」

 仁平は雅也の目を見て笑う。

 雅也は照れ、目を逸らす。

 「な、なんだよ。いきなり笑いやがってよ」

 「いや、なんでもない」

 照れ隠しで仁平の体を蹴った。

 「十分、休憩はとったろ」

 「さっきのは壱型だ。つまり次は弐型の修行を始める。ほら、さっきの秘伝書の内容を思い出して始めろ」

 仁平は立ち上がり、それに応える。

 「応!」

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