第4話「服部家に行こう!」

 カツン、カツンと鹿威しの音が響くたびに心臓の鼓動が早くなるのを感じる。

 子泣き爺事件から2日経ち、仁平は鎌田に連れられ、雷蔵に会うため服部家にいた。

 仁平がこの家で一番驚いた事はその家の大きさであった。

 いわゆる日本家屋であり、その庭には鯉が5匹ほど棲んでいた。

 仁平は廊下からその鯉を見て、現実にもこんなのあるんだと感心していた。

 廊下を歩いていると、野太い声をした男に背後から声をかけられた。

 「ほお、お前が俺の孫の仁平か」

 振り返るとそこには2メートルほどある大男が腕を組んでいた。

 男は顎にたくわえられた白いひげを撫でるとまた口を開いた。

 「お前の力を知りたい。どれ、手合わせ願おうか」

 きっと男には殺意や敵意といった感情は今、仁平には向けられていない。

 しかし、彼といると心臓がしぼむような感覚がした。

 「雷蔵様、あまり脅かさないであげてください」

 鎌田がかけている眼鏡を人差し指であげた。

 その言葉を聞いた雷蔵は反り返りガッハハと豪快に笑った。

 「鎌田、俺は仁平と2人きりで話したい。席をはずせ」

 そういわれた鎌田は「では」と言い、その場を去っていった。

 仁平は祖父と2人きりで退治することになり、より一層緊張が顔に現れる。

 「まあ、まあ、緊張するな」

 仁平は額の汗を拭い、声を上げた。

 「なあ、なんであんたは俺を次の当主にしようと思ったんだ?」

 「ほお、いいところに目がつくじゃねえか。実は俺には何人もの愛人がいてな。その中でも一番愛した女との孫だからだ」

 「それだけの理由で……?」

 「俺にとっては重要だ。だが、これだけが理由というわけじゃ……いや、これはまだお前にいうべきじゃないな」

 仁平は雷蔵が何かを言いかけたことが気になったが深く追求しないことにした。

 「さて、お前はこれから忍としての修行を始めることになるわけだ。そこで指南役を連れてきてやった。来い、雅也」

 雷蔵がそういうと不服そうな顔をして、2日前に仁平を殴った男が現れた。

 雷蔵は雅也のかたに手を置いた。

 「こいつは俺と5人目ぐらいの愛人との間の息子の木下雅也だ。生意気だが、俺と血縁関係を持つ奴の中では今んところは一番強い」

 雅也は雷蔵の手を振り払った。

 「やめろ、くそジジイ。俺はお前の息子じゃない」

 雷蔵は再び豪快に笑った。

 「まあ、なんでもいい。仁平に忍のイロハを教えてやってくれ」

 そういうと雷蔵の姿は消えた。

 しばらく呆気にとられた仁平は我に返り、雅也にぎこちない笑顔を作りながら握手を求めた。

 「ま、まあなんだ。よろしくな木下」

 雅也は差し出された右手を一瞬見るとその手を払いのけた。

 「貴様と仲良くする気なんかない。あのくそジジイにいわれたから仕方なくやるだけだ」

 雅也はまるで憎悪を籠めているかのような冷たい声で言い放った。

 鹿威しの音がやけにうるさく聞こえた。

 

 雅也はついて来いとだけいうと何も言わずどこかに歩き出した。

 「おい、まてよ、木下。なんであんとき、俺のこと殴ったんだよ」

 握手を拒否されたことで2日前に殴られて事が急に腹が立った仁平は木下に問い詰める。

 それに対し、木下は何も聞こえないといったように歩みを止めなかった。

 彼が歩みを止めたのは仁平に腕を掴まれた時だった。

 「おい、放せ」

 仁平を睨みながら言う。

 「俺の質問に答えろ」

 「お前が嫌いだからだ。これで十分か?わかったらさっさとその汚らわしい手で俺の手を掴むのをやめろ」

 仁平はそれでも雅也の手は離さなかった。

 「初対面の奴に嫌いだとか言われても意味わかんねえよ。」

 雅也を睨みながら言った。

 雅也は力づくで仁平の腕を振り払った。

 その衝撃で仁平は倒れた。

 「あのくそジジイの孫だから。それで十分か?わかったらさっさと起き上がってついて来い。俺がお前を殺す前にな」

 これ以上話してもらちが明かない。

 そう思った仁平はおとなしく雅也についていくことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る