第2話「喫茶店とキュウビの影」
放課後、澄香は仁平へ一緒に帰ろうと誘ったが、適当な理由をつけて断った。
仁平は朝に男から渡されたメモを見た。
そこには午後6時、野田駅前の喫茶店に集合と書かれていた。
野田駅というのは仁平の高校の最寄りの駅であり、仁平は下校するときに澄香と何度か立ち寄ったことがあった。
カランカラン、ドアを開けるとドアベルの音がした。
「仁平様、こちらでございます」
朝の男は店の奥から、入ってくる仁平を見て声をかける。
仁平がそのテーブルに腰を掛けると、男は微笑みながら言った。
「いやーまさか本当に来ていただけるとは……内心、来ていただけないんじゃないかと思っていましたが杞憂みたいでよかったです。」
男はテーブルの上の半分ほどになったコーヒーを1口飲むと仁平にメニュー表を差し出した。
「なにか頼まれてください」
仁平が断ると男は少し残念そうな顔をして、メニュー表をしまった。
「さて、朝の話考えていただけましたか?」
「俺が現代最強の忍になって服部家の24代目当主になれとかいう話だよな」
男はうなずき肯定する。
「まだ、よくわからない……服部家のことも忍のこともそれに……妖怪?のことも」
仁平はうつむきながら言った。
それに男は一瞬残念そうな顔をしたがすぐに微笑み、言った。
「結論を出すのは早い方がいいですが急ぐ必要はありません。では……少し、忍と妖怪のお話をしましょう。」
男はその後、仁平に忍、妖怪そして服部家について軽くだが説明をした。
男が言うには、いまから約1000年前の日本で初めて妖怪と言われる存在が確認されたという。
当時の人間は妖怪に対処する術がなく、ただ蹂躙されるだけだった。
しかし、そんな中自ら開発した特殊な技術で妖怪たちを祓う男が現れたという。
その男の名は服部衛門。
服部家初代当主であり、のちに最初の忍と言われる存在である。
一世一代の大仕事である銀行強盗を終わらせた男はアパートの自室に入ると表現できないほどの疲労感に包まれたが、それ以上に幸福であった。
「はあ……はあ、やったぞ!ついに俺は!やり遂げたんだ!」
五十嵐武夫はカバンに入った4億円を見て笑いが止めらなかった。
「いままで、どんなところにいてもくそ野郎どもがオレをなにもできないクズと馬鹿にしてきた。でも俺はできるんだ……!」
自宅の冷蔵庫から缶ビールを開け、窓から夕焼けを見ながら一気に飲み干す。
この日のビールは特にうまく感じられた。
「やあ、うまくいったみたいだね」
五十嵐の背後から白い狐の面をつけた男が声をかけてきた。
「ああ、キュウビか。お前のおかげでうまくいったよ。」
五十嵐はキュウビと呼ばれた男の近くに10束の札束を投げる。
「約束の1000万だ」
キュウビは投げられた札束を少し眺めたが、すぐに興味をなくし五十嵐に話しかける。
「ねえ、1000万はやっぱりいいや」
男はキュウビにじゃあ何が欲しいんだと問いかけた。
「ちがうよ、もっとキミに力を貸してあげたいとおもってね。ほら、君が銀行強盗するときにボクの妖術の一部を使わせてあげたでしょ。自分も妖怪になりたいとは思わなかったかい?」
男はキュウビのいる方に振り向き、少し強く言った。
「何言ってんだよ。妖怪になりたい?は、そんなのごめんだね。」
「そっかあ、じゃあざんねんだなあ。」
キュウビはわざとらしく肩を落とした。
次の瞬間、キュウビは五十嵐の頭を掴んでいた。
「無理やり、妖怪にしなきゃいけないなんてなあ。」
男は声にならない声をあげ、自らの体からどんどんと熱くなっていくのを感じながらその姿は異形の姿になっていく。
「いけ!五十嵐君!……いやもう五十嵐君じゃないな。そうだなあ、子泣き爺で!」
身長が130センチほどで顔には深いしわが刻み込まれた子泣き爺は窓から飛び出すと、そのままの勢いで帰宅途中の家族にはもう帰ると電話をしているサラリーマンの背中へと飛び掛かった。
サラリーマンが自らの背中の違和感に気付いた時には遅かった。
子泣き爺はサラリーマンの耳元で爆音で泣き始めた。
すると、サラリーマンの頭は爆発し、あたりには脳漿が飛び散った。
「ぱぱ?どうしたの?」
サラリーマンの電話から3歳になる娘の声が響いた。
そして子泣き爺は新たな獲物を探し太陽が落ちゆく街に消えた。
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