服部仁平の妖怪退治

耳鼻毛

第1話「黒いスーツの男」

服部仁平は頬杖を突きながら朝のニュースを見ていた。

 その中で最も彼が気になったニュースは昨日の昼に隣町で銀行強盗が発生したことだった。

 犯人は未だに逃走中であり、その消息は未だにつかめていないという。

 物騒な世の中になったなと仁平はボソッと呟いた。

 「ジンぺー!」

 家の外から大きな声で仁平を呼ぶ声が聞こえる。

 声の主は彼の幼馴染の蒼井澄香であった。

 仁平は今行くと不機嫌そうに返事をし、急いで教科書をカバンに詰め込みテレビの電源を落とし、家を出た。

 玄関の前では澄香が腰に手を当てて左手につけている腕時計を見ながら頬を膨らませていた。

 「遅ーい。私がジンぺー呼んでから3分経ってんじゃん」

 「悪かったな、じゃあ毎朝一緒に登校しなくていいじゃねえか」

 仁平は頭をかきながら反論する。

 「そ、そういう問題じゃないよ。遅刻しちゃうからほら、行くよ」

 澄香は仁平の手を引っ張り走り出した。

 「お、おい待てよ」

 「待たなーい」 

 しばらく仁平は澄香に手を引っ張られながら走っていると、背後から知らない男の声がした。

 「服部仁平様ですね……」

 仁平が後ろを振り返ると黒いスーツを着た頬骨の出た中年ぐらいの男がいた。

 「あなたにお話があります。申し訳ございませんがそちらの蒼井澄香様は席を外していただけると幸いです」

 黒いスーツを着た男はかけていた眼鏡を人差し指でそっと上げた。

 「ちょ、ちょっといきなりなんなのよ!」

 澄香はいきなり現れた素性も知らぬ男から席をはずせと言われたことに納得がいかず反論した。

 男はため息をつき、しょうがないと言いながら指をならした。

 すると、澄香はその場にゆっくり倒れた。

 「お前、澄香に何をした」

 倒れる澄香を受け止めた仁平は言った。

 「申し訳ございません。私としてもこういう手荒な真似は好きではありません。ですがこれから話すことはあなただけに聞いていただきたいことなのです」

 仁平は男を睨んだ。

 「わかった。聞こう」

 「ありがとうございます。」

 男は軽くお辞儀をすると話を始めた。

 「まずは16歳のお誕生日、おめでとうございます。そして、あなたが16歳になったことで服部家に戻られることとなりました。」

 「おい待て。いきなりなんだよ。服部家に戻ることになったって」

 「いきなりの事となって申し訳ございません。ですがこれはあなたのおじい様であり服部家23代目当主であられる服部雷蔵様のご意向なのです」

 「俺のじいさん?それに大体、服部家で俺は何すんだよ」

 「雷蔵様は御年73歳、健康面に不安がある年齢でございます。そこで、服部家では現在後継者問題が発生しております。そこであなたが選ばれたのでございます」

 「そのじいさんには俺以外に後継者候補はいなかったのか?」

 「いえ、決してそんなわけではございません。逆に居すぎるのです。はあ、あの人の女遊びにはいつも苦労させられる」

 男はため息をつき頭を押さえながら言った。

 今まで無機質に情報を伝えていただけにその様子はどこかおかしく感じられた。

 「ですが、あなたがいきなり後継者として指名されることは服部家の皆様の反感を買うことになるでしょう。そこであなたにお願いしたいことがあります」

 男は一呼吸置き、再び口を開いた。

 「雷蔵様に代わり現代最強の忍の称号を得てほしいのです」

 「は?忍?」

 思わず声をあげてしまい、その声は朝の静かな住宅街にこだました。

 「あまり大きな声をあげないでください」

 「ま……まてよ。いきなり忍とか意味のわからねえこと言われても意味わかんねえよ。」

 仁平は頬に汗がゆっくりと伝うのを感じていた。

 「忍とは簡単に言うと人知を超えた存在である妖怪を討つ者達でございます」

 そういうと男は腕時計を一瞥するとスーツの内ポケットからメモを取り出し、仁平に渡した。

 「まだ、お話ししたいことはありますが時間がありませんので私はこれにて失礼させていただきます」

 男が人差し指と中指を立てると男の周りから霧が出てきて、それが晴れると男の姿はなかった。

 「う……うん?」

 澄香が目をこすりながら意識を取り戻した。

 「私、何を?……って顔近っ!」

 澄香を案じて顔を覗き込んでいた仁平を見て顔を赤くして驚く。

 「わ、悪い。」

 仁平はすぐに離れて立ち上がる。

 「だ……大丈夫なのか?」

 「ん?何が?」

 「さっきスーツの男になんかされてただろ」

 「どうしたの。いきなりスーツの男?」

 どうやらさきほどの男を覚えていないようだった。

 澄香はいたずらっぽく笑うと走り出した。

 「遅刻しちゃうよー!はしれー!」

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