【お題・創作】恋愛の葛藤シーン(異世界和風) 貴方ならどう描く?
茶ヤマ
月下の約(ちぎり)
料亭「すゞろ」の奥まった一室。
そこに
中庭を眺められる障子を開けてあるため、月明かりが差し込んでいる。
座している二人の表情は硬く、目は昏い。
華凪恵はずっとできるだけ気配を断とうと息をつめ、その癖、手はすぐに剣を抜けるよう手を置いていた。
そんな華凪恵の姿に裏龍は、頭を軽く撫でるようにぽんぽんと手を置く。
その小さな接触すら神経をとがらせていた華凪恵にとっては衝撃だったらしく、息を吸う音とともに、びくりと肩があがった。
「そんなに気を張っていても仕方がなかろうに」
裏龍の
「そうね…その通りだわ…」
頷いた華凪恵は、もう一度大きく息をついた。
今宵、華凪恵の家は何者かの襲撃にあった。
寝ているところに押し入られたのだ。
華凪恵の家は剣の道を極めんとする道場であり、皆、それぞれ腕に覚えがあるにも関わらず斬られた。
華凪恵も数名に追いつめられ、あわや!という時に、駆け付けた裏龍により退路ができた次第だ。
落ち延びながら聞くと、裏龍の家も襲われたという。
襲われた時に「水櫻流の娘とは冥土で
そうして華凪恵の元へ来てくれたらしい。
間に合って良かった、と本当に安堵したように呟かれた。
一体何故…
「一体、
思っていたことがそのまま口を出てしまう。
言葉にし尋ねたところで裏龍にもわかろうはずもなかろうに。
と思ったのだが、その考えに反し裏龍は答えともつかぬ言葉を返してきた。
「変化を嫌う者、もしくは漁夫の利を得る者がいる……」
変化……そして漁夫の利……
華凪恵は口の中で繰り返した。
「俺の兄を覚えているか?」
突然に話が変わったものの、ええ、もちろん、と華凪恵は頷く。
裏龍の兄・
裏龍と表龍は双子であり、本来の跡取りは兄の表龍であった。
彼には幼い頃から家同士が決めた許嫁がおり、その許嫁と出かけた日の夜、帰りに何者かに殺されていた。
争った様子はほとんど見られなかったという。
瀑布流の跡継ぎである表龍の腕は確かだ。
そんな人物が大人しく斬られるものだろうか…
当時、水櫻流が疑われた。
それが2年前の話だ。
「兄は…表龍は跡を継いだら水櫻流との関係を何とかしたいと考えていた。俺の…俺たちのために」
その言葉に華凪恵は、はっと顔をあげる。
そもそも瀑布流と水櫻流は激しく反目し合う流派であった。
裏龍や華凪恵たちの曽祖父の更に前の代の時分に、藩主の嫡男の剣の指南役を巡って争った事から端を発したらしい。
相手への邪魔立てが次第に激化していき、しまいに果し合いまで発展し
以来、互いが互いを蛇蝎の如く嫌っている。
そんな中、人の来ない地蔵尊の裏にある竹林で偶然に出会った幼い裏龍と華凪恵は、双方の家を知らずに仲良くなり、その後、お互いの立場を知ってなお、淡い思いを抱くようになっていた。
「表龍は俺の…華凪恵への想いに気が付いていた。そして、俺の立場にも憤っていて」
瀑布流の跡取りが双子であることは秘密裡にされていた。
弟は跡取りの予備であり影武者として利用できるからだ。
表龍が何者かに殺された時、瀑布流の当主は、あれは影武者であり本物は生きている、と裏龍を表龍として人前に出すようになった。
これにより、影武者を殺された(本来の跡取りを消された)恨みを水櫻流にはらしに行こうする血気盛んな者を止めることができた。
裏龍が、水櫻流はこの件にかんでいない、そもそも
だがしかし、裏龍と華凪恵が二人で逢うのはますます難しくなっていた。
それでも、家を通しながら何とかつながりを持とう、婚姻という縁づきを…と画策していた矢先の襲撃である。
「瀑布流と水櫻流がいがみ合い続け、どちらか片方を取り込むのを願うもの、もしくは……」
「互いに潰し合って欲しいと願うもの……」
裏龍の言葉を華凪恵が続けた。
表龍の穏やかに両立していこうとする考えや、裏龍と華凪恵が添い遂げ合うことで収めようという考えには、とうてい賛同しかねる輩がいる。
漁夫の利を得ようとするのは、おそらく
表龍の許嫁は、ここの分家筋の娘だ。
瀑布流や水櫻流よりは門下生の数もおらず、道場も小さめだが、瀑布流と水櫻流の二つがなくなれば、凍厳流だけが残り勢力も増す。
現状維持を願うもの…、個人がしでかしてしまった事を反目している流派の所為にすることで厳罰を逃れてきているもの…、これは瀑布流にも水櫻流にも、一定数はいる事だろう。
もしくは。
漁夫の利を得ようとするものと、現状を変えたくないものが手を組んでいるとすると…。
すべきことは見えてきた。
「さて、どこから手をつけて潰していこうか…」
「とりあえずは、凍厳流から行きましょうか」
華凪恵の目の昏さはなくなろうとしていた。
「もう少し助力してくれる者もいた方が良いだろうな」
裏龍は正座していた足を崩す。
「とりあえず、今は休むことにしよう。寝るぞ」
「……その、ここで、ですか?」
何故か、つかえながら言葉を紡ぐ華凪恵をいぶかし気に見た裏龍は、数拍おいてから言わんとする意味を悟った。
「休むと言っただろう…だから、その、いや、寝ると言ったがその意味ではなくな…」
慌てふためく裏龍を見やり、ふふっと笑みをこぼす。
「はい、わかりましたわ」
大きく息をついた裏龍は、右手でそっと華凪恵の頬を撫でる。
大事な大事な
「冥土でなど婚儀をするものか。
結ばれるのならば現世でだ」
華凪恵は裏龍の右手へ自分の手を重ね、目を伏せる。
さも、いとおしいというように、そおっと頬を摺り寄せた。
「当然でございます……二人で共に、瀑布流と水櫻流を盛り立てていくのですから」
裏龍が重ねられていた華凪恵の手を取り、その手へ唇を寄せる。
「
「はい、あの月に誓いましょう」
・・・・・・・・・
彼らの活劇は、これから始まる。
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