第2話:ガベルとは

 女性関係は悪くないどころかむしろ多い方で俺は目をつけられやすい。



 人間になわばり意識という言葉を使う必要があるかは知らないが、俺は自分自身がきたえた肉体を異性いせいのためなら何度も喧嘩けんかしてきた。



 そこに目をつけられてあまり表には言えないストリートファイトを何度もやってきた。



 顔が童顔どうがんで女子にまちがえられることも多かったからかこの顔を利用して野郎やろうを油断させ、何度も別れた彼女達を守っていった。



 SNSの出現しゅつげん大規模だいきぼな規制であまり身動きが取れなくなって路地裏ろじうらのドラム缶を蹴り飛ばした時に次は『公的こうてきに許された暴力』が使える組織にスカウトされたわけだ。



 でも警察などとは違う仕事らしく、更に制限が厳しくなる組織へと入らされることになる。



 他にも大人しそうなやつからいかついやつまで勢揃せいぞろいだった。

 さながらプレデ○ーズの舞台設定のような戦闘狂せんとうきょう集団の仲間入りを果たした。



 俺達の名前は『ガベル』。

 裁判で使われるつち-- 裁判長が使うハンマー -- を意味する。



 さばくものはさばかれる。

 法でさばけず裏をかいて人をふみにじる者をたたく役割が俺達だ。



 現実では個人の復讐ふくしゅう素人しろうとが達成することは不可能ふかのう



 当然小さな不満が大きな課題となることを無視している国のおえらいさんのクレーム対応として俺達は社会訓練もかねて電話やメール、電子機器をもちいたいたずらにも対応しているのだ。



 そこでガベルは一時的に武力を許されて影で動き、理不尽りふじんを押し付けられた人間の依頼を受けながら依頼を達成させる。



 入念な後処理あとしょりで個人情報を守るからか依頼者とガベルの対価たいかは外の全国全世界の人間が欲しがる特権が手に入る。



 俺は好きで入ったわけでもなくストリートファイトで喧嘩けんかしすぎたからか交通費こうつうひ旅費りょひも何もかもが無料で遊びが出来る分、ガベルの管理下かんりかに国が倫理観りんりかんを守るためにとらえられただけだ。



 自分で手に入れたい夢や欲望、野心は最後まで意味不明な自分が欲しくない幸せと正義で生かされることになる。



 たかがストリートファイトで何をしたかって?

 言える理由としては彼女を守っただけだ。



 それで納得してもらえるのなら冤罪えんざいもなければ争いもない。




 やつらは知っていた。

 俺が




 ガベルの仕事で誰一人贅沢ぜいたくと言われる暮らしを喜ぶものはいなかった。



「オレ学歴も何もないし、あたえられてばかりのこの仕事も好きに暴れられるだけそこまで不満はないんだけど」



 前にガベルの仲間で話せる人がいたから話してみたらひかえめに伝えるとしても凄惨せいさんな暮らしをしていた。



 この人とは喧嘩したくないなあ。

 ガベルの財力で小綺麗こぎれいになっているがもうこの人は現実には戻れないかもしれない。



 ガベルには女性も何名かいた。

 ただここにスカウトされるだけあって軟派なんぱな俺でも恋愛どころか会話も業務的なものですませていた。



 もし俺達ガベルの職務を表の連中に知られても差別することは禁じられている。



 聞こえはいいがストレスを俺達にあたえさせず、管理側の実益じつえきのために守られているだけに過ぎない。



 俺達の仕事は法で裁けない危険人物達を始末しまつすること。



 いくら許可されているとはいえ、それはそれで気が引ける。



 何度もガラが悪く、話も通じず暴力とナイフや銃が武器の無法者むほうものと何度も戦い、何度も別れた彼女を追っていた俺ですらガベルに入ってからは好戦的こうせんてきな仲間に全てまかせていた。



 その代わり証拠隠滅しょうこいんめつの掃除や現場を関係ない人間に見られた時の言い訳と他言無用の説得をするようになった。



 今まで自分の中に相手を言葉で解決する発想がなかったから自分の手をこれ以上汚さないように必死で生きぬいた。



 そんな生活の後に手を汚した仲間と高級ホテルで飯を食ったり、何事もなかったかのようにしゃべったり。



 俺は確実に嫌がらせでここに入らされている。

 命令も何度も無視して得意だった暴力も一切しない。

 だからといってガベルに何らかの処置しょちはされない。



 それも管理側の予想通りなのかもしれない。

 細くて童顔で中性的な筋肉人間が今まで恋愛のためにしか使わなかった脳を使う姿を見るのを下手な娯楽よりも面白いのだろう。



 それだって長続きはしない。

 いつかはかつて汚したこの手を、ガベルの仕事として使わざるを得ない時が来る。



 俺も若いからか上手く立ち回れると思い上がっていた。



 彼女が現れるまでは。

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