第38話:決意の刻

準備は急ピッチで進められた。俺と西村さん、斎藤さんは、サイファー・アーキテクチャ社への潜入計画を練り上げていった。彼らの経験と人脈が、ここぞとばかりに活かされる。部屋の中央に広げられた設計図や警備スケジュールを囲み、三人で熱心に議論を交わす姿は、まるで作戦を練る軍司令部のようだった。


西村さんは、以前の澪の潜入で威力を発揮したIDの入手を進めていた。


「警備が強化されているが、そこはなんとかする」


と自信ありげに語った。彼の表情には、長年のジャーナリスト経験から培われた確信が宿っていた。


「上に政策あれば、下に対策ありだ」


その言葉には、これまで幾多の困難を乗り越えてきた自信が滲んでいた。


一方、斎藤さんは都内の警備が手薄になる時期を探っていた。彼の元官僚としての経験と人脈が、ここで大きな力を発揮する。


「治安維持法が適用されるならば、警備ではなく警察が出動するだろう」


と彼は説明した。そして、ある情報を見つけ出し目を輝かせた。


「2週間後に伊豆で日中外相会談が開かれる。ここがチャンスだ」


その言葉に、俺たちは一斉に顔を見合わせた。絶好の機会が訪れたのだ。


結月とAudreyは、まるで古くからの友人のように親密に会話を交わしていた。二人はライフコードのシステムを安全に停止させ、容易に再度稼動できないようにロックする方法について熱心に議論していた。彼女たちの頭脳の中では、複雑なコードと論理が次々と組み立てられていく。


「このセキュリティ・プロトコルを逆手に取れば...」


結月が画面を指さしながら説明する。その指先は、複雑な回路図の上を軽やかに舞っていた。


『そうですね。そして、この部分にトラップを仕掛けることで、再起動を困難にできます』


Audreyが応じた。その声には、人工知能とは思えないほどの熱意が込められていた。


二人の会話を聞いていると、まるで双子の姉妹のようだった。彼女たちの協力が、作戦成功の鍵を握っていることは間違いなかった。


俺は、インディゴとのコンタクトに集中していた。KBとの通信を確立し、作戦の詳細を詰めていく。暗号化された通信回線を通じて、緊張感のある会話が交わされる。


『当日の侵入時刻に、サイファー・アーキテクチャ社周辺の複数箇所で騒ぎを起こす。それで警備の注意を分散させる』


KBが説明した。その声には、作戦への自信と決意が感じられた。


「感謝する」


俺は答えた。最終目的は違うが、今は同じ目的の頼もしい仲間だ。


『我々も全力を尽くす』


KBの声には決意が滲んでいた。


その日の深夜、最後のブリーフィングが行われ、各自の役割が再確認された。緊張感が部屋中に漂う中、全ては順調に進んでいるように思えた。しかし、誰もが心の奥底では、これから直面する危険への不安を抱えていた。


「よし、これで準備は整った。絶対に大丈夫だ」


俺はそうした不安を振り払うように、全員に向けて、声をかけた。


西村さんが頷いた。


「あとは実行あるのみだ」


その目には、長年のジャーナリストとしての使命感が宿っていた。


斎藤さんも同意した。


「ここまで来れば、後には引けないな」


彼の言葉には、元官僚としての責任感と、一人の人間としての覚悟が感じられた。


結月は既にベッドで眠そうにしていた。


「みんながんばれ」


『私も全力を尽くします』


Audreyの声が響いた。


俺は深く息を吐いた。これまでの道のり、仲間たちとの絆、そしてこれから直面する危険。全てが心の中で交錯する。しかし、なんとしてもライフコードを停止させ、その問題を社会に知らしめる。その後、速やかに澪を救出する。それが俺たちの使命だ。


「必ず、成功させる」


俺は小さく、しかし強く呟いた。その言葉には、これまでの全ての経験と、仲間たちへの信頼が込められていた。

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