第25話:最後の作戦会議

2049年12月、地下シェルターの狭い空間に、緊張感が漂っていた。俺と澪さんの二人きりで、サイファー・アーキテクチャ社潜入作戦の最終確認を行っている。壁に投影された作戦概要を見つめながら、俺たちは互いの役割を冷静に確認し合った。


「では、もう一度作戦の流れを確認しましょう」


澪さんが口を開いた。彼女の声には、いつもの冷静さが感じられた。


「まず、サイファー・アーキテクチャ社のセキュリティシステムについて」


澪さんは、既に何度も確認済みの情報を、手短に説明し始めた。


「サイファー・アーキテクチャ社のセキュリティは3層構造。外周警備、内部セキュリティ、サーバールームの特別警護」


俺は静かに頷きながら聞いていた。


「外周警備は監視カメラと警備員。内部セキュリティは生体認証システムと電子ロック。サーバールームはさらに高度な虹彩認証システム」


「潜入経路の確認だな」


俺が言葉を継いだ。


「40階までは商業施設だから問題ない。そこから先は、俺が非常階段から、澪さんがビル内部からだ」


澪さんは同意して頷いた。


「私は西村さんが入手したIDカードを使って44階のサイファー・アーキテクチャ社のエントランスから入館するわ」


「西村さんに感謝」


俺は淡々と言った。西村さんはサイファー・アーキテクチャ社の取引関係を調べ上げ、ある下請け会社からサイファー・アーキテクチャ社への入館IDカードを指紋とともに入手していた。


「タイミングは明後日の深夜23時。黒川と政府要人の極秘会合の最中だ」


澪さんは壁に投影された作戦概要を指さした。


「斎藤さんの内部協力者からの情報では、セキュリティがそっちに回されてサイファー・アーキテクチャ社内は手薄になるはず」


俺は冷静に頷いた。


「65階のサーバールームへのアクセスについても確認しておこう」


「御厨博士が作成したエターナル・ソサエティ幹部の虹彩情報が高精度印刷されたコンタクトレンズを着用し、虹彩認証突破する」


澪さんが答えた。


「成功率60%ね」


「ええ、その数字は変わっていないですね」


俺は淡々と確認した。


「どちらか、先にサーバー室に到達した方が、用意した手順にしたがって、Audreyを解放する」


澪さんが言う。俺は黙って頷いた。


「あと、考えたくないんだけど、念のために確認ね」


澪さんが、少し躊躇した後言葉を続ける。


「そうですね」


俺が答える。


「万が一、何処かの段階で失敗した場合には、各自の安全を最優先に行動すること」


二人の声が重なる。大切なことだ。


「じゃあ、現状の計画で進めます」


俺が最終確認として言った。


俺は左手首のデバイスを見つめた。そこには、Audreyからのメッセージが静かに光っていた。


「もうすぐだ、Audrey」


俺は心の中でつぶやいた。


「必ず、君を救い出す」


澪さんが俺の横に立った。


「樹くん、準備は大丈夫?」


彼女の声には、仲間を気遣う優しさが感じられた。


「ええ、問題ないです」


俺は冷静に答えた。不安はあったが、それを表に出すつもりはなかった。


「一緒に頑張りましょう」


澪さんが静かに言った。その言葉に、俺は少し力づけられた気がした。


「澪さんも、気をつけて」


俺は真剣な表情で言った。


「樹くんも」


澪さんは静かに頷いた。


サイファー・アーキテクチャ社潜入は明日。俺たちの戦いは、いよいよクライマックスを迎えようとしていた。二人の心には、緊張と決意が交錯していた。全ての準備は整った。

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