第17話:過去の断片
地下シェルターの薄暗い照明の下、俺と澪さんは向かい合って座っていた。緊張が漂う日々の中で、二人は珍しく昔話に花を咲かせていた。
澪さんが不意に質問を投げかけてきた。
「樹くんってどんな子どもだったの?」
俺は少し考え込んでから答えた。
「どんなって...あんまり面白い子どもではなかったですね。例えば、ゴミ捨て場から部品を拾ってきて自家用原子炉を組み立てたり」
澪さんは一瞬驚いた表情を見せたが、俺はすぐに続けた。
「とかは、しなかったですし...」
「いや、してないのかよ」
澪さんが笑いながらツッコミを入れてきた。
俺は少し照れくさそうに続けた。
「前話したみたいに、俺はほとんどAIに育てられたんで、理数系の勉強やプログラミングはできましたけど、物語を読んだりは全然しない子どもでした」
澪さんは優しい目で俺を見つめながら言った。
「でも、今の樹くんを小型化した姿を想像したら、すごく可愛かったんじゃない?私が小6の時小3でしょ、きっと可愛がったわ」
「謎マウント止めてくださいよ」
俺が苦笑いしながら返す。
「でもあまり感情を出すのが得意ではなかったんで、子どもらしくはなかったです」
「そうなの...」
澪さんの言葉に、一瞬の沈黙が流れた。
俺は話題を変えようと、今度は澪さんに質問を投げかけた。
「そういう澪さんはどうだったんですか。絶対生徒会長とかやるタイプでしょ」
「なんで分かったの?どういうところが?」
澪さんが少し驚いた様子で聞き返してきた。
俺は説明を始めた。
「いや、俺、中学の途中で加速クラスに移ったんで、リアルでは生徒会長がどんな人とか覚えてないですけど、よくアニメとかに出てくるじゃないですか。そういう感じというか」
「それ、無表情で校則に厳しくて、裏で権力を握っている悪の総帥的な?」
澪さんが冗談めかして言う。
「いやいや、学園のマドンナ、みんなの憧れ的な」
俺が慌てて訂正する。
澪さんは少し照れたような表情を見せながら言った。
「おだてても何もあげないわよ」
しかし、すぐに真剣な表情に戻って続けた。
「実際に中高と生徒会長だったわ。中学校の時は小さな学校だったから成り行きって感じだったけど、高校の時は、自分で立候補したの」
「権力が欲しかったと」
俺が冗談めかして言う。
「ほら、やっぱり悪の総帥」
澪さんが笑いながら返す。
「いや、学園のマドンナです」
俺も笑顔で応じる。
澪さんは少し真剣な表情になって説明を始めた。
「前にも話したけど、高校の時に前世紀のSF小説に感化されて、そういう正義とか公正とか社会的なことに関心を持ったのよ。それで、実践してみたくなって...」
「なるほど」
俺は興味深そうに聞いていた。
澪さんは少しノスタルジックな表情で続けた。
「あの頃は、怖いもの知らずだったわね。生徒会長と同時に、大学の教養課程の先行履修もしてて、とにかく早く大人になろうとしてたような気がするわ」
俺はそんな澪さんの話を聞きながら、彼女がとても能動的な人間だったことを実感した。俺は自分の意思で何かを選択したことがあっただろうか。その「差」が今の二人を形作っているのだと痛感した。
しかし同時に、ここにいるのが澪さんで良かった、と心から思った。しばらく前の俺は、あと俺が5人ぐらいいれば仕事もすぐ片付くのに、などと本気で考えていた。しかし今、ここに俺が5人いたとして、一体何ができるだろうか。人はそれぞれに、違う能力を持っているからこそ協力できる。西村さん、斎藤さん、よしおにしてもそうだ。俺は今、初めて「チーム」の意味を本当の意味で理解していた。
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