嫌われている。熊。クマ。くま。

エリー.ファー

嫌われている。熊。クマ。くま。

 可愛い熊がいました。

 熊は、いつもマシュマロを食べていました。

 何故か。

 理由なんてものはありません。

 強いて言うなら、マシュマロ以外を食べると爆死する妄想にとりつかれていたからでしょうか。

 でも、熊は、それを妄想だとも理解していました。

 あぁ。その通りです。

 爆死する妄想にとりつかれていたのであれば、マシュマロを食べない方が普通なのではないか。

 あなた、今、そう思いましたね。

 そうです。

 全くもって、その通りです。

 つまり、熊は死にたがっていました。

 でも、それは祈るような気持ちであり、確実な手段を取りたいとは思っていなかったようです。

 いつも、寂しく。

 誰にも共有できない熊は、静かに時間を過ごしていました。

 マシュマロは山ほどあり、切り株の下に埋めてあります。たまに、ずる賢いリスと、賢いだけが取り柄のヘラジカがつまみ食いをしに来ましたが、その度に、臓器を引き千切ったり、眼球をくり抜いたりしていたので、ここ数か月は来なくなりました。

 熊は、一人静かに時間を過ごして、たまの休みの日にはライブのチケットを数えていました。

 前に、チケットの発券までしたのに行くのを忘れて酷く後悔したことがあったからです。それからは、暇さえあればチケットとスケジュールに書いてあるライブを確認し、当日はきっとこんなライブになるだろうと想像して満足し、一日を終えるのでした。

 そんなある日のことです。

 熊の所に烏が来ました。

 たった一羽の烏は熊に決闘を申し込みました。

 殺し合いをする気のない熊は、烏を説得します。

 しかし、烏は退きませんでした。

 決闘をすることで自分の生き方をより良い方向に導けると本気で思っているようでした。

 熊は、思います。

 きっと、この烏は世間知らずなのだろうと。

 だから、勝負が、未来を決めてくれると勘違いしているのだろうと。

 でも。

 その若さは、非常に素晴らしい宝物だ。

 この烏が持つ、その思想自体は守ってあげたいなぁ、と。

 烏は、埒が明かないので帰る、と言いました。

 その次の日です。

 烏がまたもやってきました。

 今度は、二羽でした。

 熊の目を見つめて言います。

 結婚したんだ。

 これで。

 命のやり取りに価値が生まれる。

 さあ、決闘をしよう。

 熊は呆れました。

 価値を生むための決闘であって、決闘に価値を与えるために行動をするのは、浅はかに思えたからです。

 熊は、思いました。

 もう、烏に会わないようにしよう。

 そうすれば、決闘は行われないし、誰も死なない。

 烏のためにも、それが一番だ。

 その日の夜、二羽の烏が埒が明からない、と言いながら帰っていく後姿を見ながら。

 熊は巣から出て行く準備をしました。ただ、切り株の下にあるマシュマロを食べる機会を永遠に失う可能性があるため、ありったけのマシュマロを食べました。

 その瞬間、体の内側で何かが熱くなるのを感じました。

 あぁ。

 爆死できるかもしれない。

 これが、本当に、本当に。

 最後のチャンスなんだ。

 熊は二羽の烏の後ろを息を殺して付いて行きました。

 空中と地上。ということで流石に足音も呼吸音も聞こえないはずではありますが、念には念をいれました。

 その数時間後。

 熊は二羽の烏の死体と、その二羽が育てていた雛の死体で飽きるまで遊びました。

 そう、そうなのです。

 ただの悪ふざけ以上の価値なんて、最初からなかったのです。

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