第25話 髪飾り2

 シャロンはにっこりした。


「いつもと違うと思いまして」

「どう違うと?」


 日頃の彼を思い浮かべながら、シャロンは言葉にする。


「アンソニー様は、怒ったような顔をすることが多いですわ」


 するとアンソニーは憮然とした。


「怒っているわけではない」

 

 しかしやはり怒っているようである。

 いつもの彼になった。

 シャロンは頭につけた髪飾りがどんな感じか気になった。


「映して、見てみるといい」

 

 彼はシャロンの手を引き、ショーウィンドウに近づく。

 シャロンはそこで姿を映してみた。

 可愛い髪飾りだ。気分が上向く。


「ありがとうございました、アンソニー様」


 彼のほうを向いて言うと、アンソニーは息を呑んだ。


「? アンソニー様?」

「兄上」

 

 横を見れば、そこにライオネルの姿があった。

 いつ戻ってきたのだろう。まったく気づかなかった。


「探したよ。ここにいたんだね?」


 王太子に探させてしまった……。


「申し訳ありません、ライオネル様」


 シャロンはライオネルに謝る。


「用事は終わりました?」

「ああ。終わった。──それは何?」

「え?」


 ライオネルはシャロンの髪を見つめた。


「その髪飾り、さっきまでしていなかった」

「こちらは今」


 シャロンがアンソニーにもらったのだと話そうとすれば、ライオネルは髪飾りをシャロンの髪からすっと取った。


「ライオネル様?」


 彼は淡く笑んだ。


「似合っているけれど、今は外してくれる? 蝶のように君がどこかに飛んで行ってしまうといけないから」

「蝶のように?」


 どういうことだろう。シャロンは意味がよくわからなかった。


「人混みで、髪飾りが外れてしまうといけないし、預かっておくよ」


 ライオネルはシャロンの手を握りしめる。


「待たせて悪かった。行こう」

 

 何も言い出せない雰囲気で、シャロンは頷いた。

 歩き出し、アンソニーは無言でついて来る。

 近くのカフェに、三人は入った。

 素朴で愛らしい内装だ。


「可愛いお店ですわ」

「うん。焼き菓子が美味しい」


 ライオネルの勧めるレモンのパウンドケーキを注文して口にしたが、本当に美味だった。


「もっと食べる? 嬉しそうに口にしているね」

「はい、美味しいです」


 シャロンがにこにことして言えば、ライオネルも微笑む。


「じゃあ、もっと頼もう」


 そこでシャロンはたくさん甘い焼き菓子を食べた。満足感いっぱいで幸せだ。


(太ってしまうかもしれないわ)


 帰ったら体操しよう。

 カフェを出た後、ライオネルはまた街で知り合いに遭遇し、声をかけられた。

 人と来ているから、と彼は返していたが、断れない相手が現れた。

 それは宿屋の主人だった。


「この間は君の助言でとても助かったよ! 君は賢く、しっかりしている」

「お役に立てたのであれば幸いです」

「客のことで、また重要な相談があるんだが」

「すみません、それは違う日に」


 宿屋の主人はシャロンとアンソニーに視線を向ける。


「そのふたりは?」

「僕の妹と友人です」


 彼はアンソニーのことは友人ということにしたようだ。


「悪い、急ぎなんだ、ライオネル。今聞いてもらえるとありがたい」


 ライオネルは迷って、吐息を零した。


「では妹と友人も一緒でいいですか」

「誰にも聞かれたくない。客のプライベートなことなんだ」


 そのとき、通りの向こうからクライヴが歩いてくるのが視界に入った。


(あ、クライヴ)


 彼はすでにこちらに気づいているようだ。

 ライオネルはクライヴを見、宿屋の主人に尋ねる。


「なら友人だけ連れて行っても? 宿屋の外で待っていてもらうので」

「ああ」


 主人が頷く。ライオネルは近づいてきたクライヴに歩み寄る。


「ちょうどいいところで会った。シャロンの護衛を頼めるかな。僕とアンソニーは少しここを離れるから」


 クライヴは首肯した。


「かしこまりました」

「シャロン、ちょっと待ってもらってもいい?」

「はい」


 ライオネルは色々な人に頼られていてすごい、とシャロンは感心する。

 宿屋の主人と共に、ライオネルとアンソニーが立ち去り、その場にはシャロンとクライヴが残った。


「お嬢様、今日は王宮にいらっしゃったのでは?」

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