妹の恋
春を迎えなんとなく浮足立ってきたころ、たけるの妹、みことがいなくなった。
とうさんもかあさんも必死になって探している。ぼくも探したかったけど、小さな娘がいるんだからと止められた。
数日後にみことが見つかった。隣村のずっと南、森の近くの開拓村にいた。
最初は攫われたのではないかと思っていたけどちがった。妹は開拓民の一人、あきらの元にいた。あきらとは一昨年の秋、森に行く日に出会ったという。さすがにその時は変な人くらいの印象だったらしい。冬にこちらの村に出稼ぎにきていた彼に徐々に惹かれて、運命を感じて押しまくったそうな。
思い立ったらすぐに動く、ほぼ猪みたいなやつだ。先に両親に言えばいいのにと思った。
「言うと反対するでしょ」
いや、反対するかどうかわからないと思うよ。だいたい反対するような親だったらあかりさんとの結婚を後押ししないと思うし。
◆◆◆みこと視点◆◆◆
初めてあきらと会ったときは森に行った日だった。
いい大人が狩りの役目を放り出して地面を掘っては土を見ている。
そして近くの木を見あげてにんまりしている。第一印象は変な大人だった。
「何してるの?」
私が声を掛けるとにんまりして、
「土を見てるんだ。この辺りの土は良い。きっとこの木の落ち葉が良いんだろうな。それに……」
とまくしたてる。何言ってるんだ。でも変なやつだけど悪い奴じゃないことは分かった。
冬になると村の畑で再会した。村一番の広い畑畑で働いていた。この寒い時期でも黙々と働き、休憩時間もあちこちの土を見ている。
あきらの開拓した畑はまだ痩せていて芋しか作れない。だから冬は他の村に出稼ぎしないと生活できないそうだ。そう言いながらも、
「去年よりも芋の量が増えてるから来年が楽しみなんだ」
と子供のように話している。こっちもうれしくなる。
兄貴があかりさんと結婚して両親の畑はどうするか、そんな話題がでている。近寄ってくる男たちはうちの畑が目当てだ。私と結婚すれば畑が手に入るそう考えているのが見え見えだ。でもあきらはそんなことより自分の畑の収穫をどうやれば増えるかそればかり考えてる。
また森に行く日が来た。相変わらず森の中の土を見ているあきら。去年印をつけたあたりを見て掘って土を確認して考えてこんでいる。
「今年の芋はどうだった?」
「それが思ったより良くなかった。天気のせいか土のせいか……」
「畑を二つに分けたら?」
「そうしたいのはやまやまだけど、そうすると失敗した時にね。来年からは小麦の畑を増やさないと年貢が……」
なかなかうまくはいかないのね。
やがて冬になりまた隣の畑にあきらが来る。暇を見つけるたびに彼に話しかける。そして、ある夜、うちの納屋で彼と結ばれた。
あきらは両親と話してからと言っていたけど、すぐに許されるとは思えない。春に彼が自分の家に帰る時に無理矢理一緒について行った。
失敗したなと思ったのは、書置きを残さなかったこと。私がいなくなって大騒ぎになったのは後で知った。両親にはめちゃくちゃ怒られた。後から会ったあかりさんからも兄貴からも怒られた。
その年の芋はほどほどだったけど、次の冬に出稼ぎしなくても済むくらい収穫できた。そして増やした小麦も予想より多く収穫できた。ずっとあきらが準備していた土が小麦に合っていたようだ。お人好しのあきらは他の開拓民にも教えていたから開拓村は豊作となっていた。
春にはみんなと一緒に結婚式を挙げた。気の利いた言葉も言えないあきらだけど、私を見て、
「きれいだ」
って言ってくれた。
早く二人の子供が欲しいね。
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