幼馴染

 その日は隣村と合同で森に行く日だった。たけるも一人前になったので狩りの方に参加する。二年前と違い、結婚してから背が伸び男らしくなったと言われる。狩りの主役は本職の狩人で自分たちは経験豊富な男衆について勢子の手伝いをする。


 同年代の女の子たちもそろそろ既婚者が大半を占めるようになった。そんな中、すみれとまきはまだ独身だった。すみれはたけると同じくらいの背丈で女性としては背が高い。まきは小さくてちょっとぽっちゃりしている。二人とも顔がよく結構もてたはずだが不思議と縁遠い。

 そして二人のそばには村一番の大店の娘みよがいた。こういう場にお嬢様が来ることはないのだが視線を追うとそのさきにはゆうじの姿があった。なるほどそう言うことか。二人はお嬢様が暴走しないように止める役か。


 女衆や若い少年とわかれ森に入る。大人の指示に従い配置につくがなかなか獲物が捕まらない。今年の森は人が入るあたりまで大物が来ることはなかった。なので狩りは暇だった。気がつくとゆうじが森の外に向かっている。気になったが持ち場を離れるわけにはいかない。


 これ以上は、と判断されて狩りは打ち切りになった。本職は明日から奥に行くらしい。たけるは気になっていたゆうじが消えた方に向かった。


 ゆうじは一人ではなかった。いつぞやのように木に女を捕まらせて後ろから腰を動かしている。女性は、ちょっと前に赤ん坊を産んだばかりの若妻。この近くに畑のある農家の嫁さんだ。たしか拝み倒して許してもらったはずなのに。


 そして周りをみたたけるは息を呑んだ。ゆうじたちから見えないあたりに、すみれ、まき、みよが見えたから。みよはなんか泣きそうな顔をしている。そう言うことか。みよに現実をみせてあきらめさせたんだ。


 皆のところに戻ると遅れて三人が戻ってきた。ゆうじと若妻は別々に戻ってきた。みよの目は赤かった。



 冬に入り家の中での仕事が増える。今年も無事に年を越して、そろそろ春の準備をしないと。今日はたけるの家に、すみれ、まきがきて三人で作業をしている。農具の手入れが終わってたけるが戻るのを見計らったようにすみれがあかりさんに聞く。

「ねぇ、たけるってさ、あっちもおとなしいの?」

 ちょっとまて、本人の前でそんなこと聞くんじゃない。そう言いたいが声が出ない。

「うーん、最初は可愛らしかったけどね、今はね……夜は別人よ」

 ちょっとあかりさんそんなあけすけに。

「えー、信じられない」

 すみれが驚いたように言う。

「そうかぁ、ねえ、じゃ、あかりさん大変だから私達が手伝おうか?」

 おとなしそうに見えるまきが大胆なことを言う。

「何言ってるのよ、たけるはわたしの。あんたたちには指一本触れさせないから。そんな冗談言ってないで手を動かしなさい」

 そういうと三人は口を閉じた。たけるはなんか居心地がわるくて外に出ようかでも寒いしなと迷っているとまきが話し始めた。

「あたしね、みよのおかあさんになるの」

 えっ、みよのおかあさんってだいぶ前に亡くなったよね。それにお父さんはだいぶ年が離れているし。

「夏にね、うちに来た時にねちょっと誘ったらそういうことになってね。今お腹に赤ちゃん居るんだ」

「何言ってんの、たけるに振られてからずっとあのおじさんを誘ってたじゃない。なかなかなびかないって」

「えへっ、そうだけどね。みよのおとうさんうちのおかあちゃんが好きだったらしくてね。そのへんをちくちくと。あとね、みよがおねだりしてくれたの」

 まきがあっけらかんという。


「そうかぁ。そうそう私も旦那決まりそう」

 すみれも思い出したかのようにいうけど、言いたくてたまらなかったみたいだ。

「南の畑のおじさん。まだおじさんっていっちゃかわいそうかな」

「あぁ、奥さん追い出されたんだってね。まぁ、あれだけ派手にやればね」

 どうやら、ゆうじと森の中で密会していた若妻の旦那さんみたいだ。

「ほんとうにあの人真面目で良い人なのになんでゆうじなんかになびくかねぇ」

 たけるは心の中にチクリと針が刺さったようなそんな気がした。すっかりそとに出ていくタイミングを失って三人の話を聞かされたつづけた。

「みよもすっかり現実みるようになってね。おじさんの紹介した人とお見合いするの」


 その時、寝ていた娘が起きて泣き出した。

「あらあら、おむつかしら」


 あかりさんが娘のおむつを見に行くと、三人で残された。気まずい。

「あーもう、気にしないでって言っても気にしてるんでしょ。でもね、もうきっぱり割り切ったからね。あんたもゆみのことわりきったでしょ」

「そうそう。あんたも父親なんだから家族のことだけ考えてりゃいいの。私達ねあんたが思うよりしあわせなんだから」



 二人が帰ると娘を抱いたあかりさんが横に座りしなだれかかった。

何か言わなきゃ、そう思いながらも言葉が出ない。結局ひねり出した言葉はこれだった。

「そろそろ次の子を作ろうか」

「ばか……」




 二人は言った通りに春になるとそれぞれの相手と結婚した。相手が再婚なので結婚式は身内だけだったけど幸せそうだった。

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