「楽園」


未来の世界では、すべての人が「楽園」と呼ばれる仮想の世界に住んでいる。

ここでは、何もかもが完璧に設計されており、どんな願いも即座にかなう。


心地よい景色、美味しい食事、無限の娯楽が、永遠に繰り返される。

人々は現実の煩わしさから解放され、理想の世界で幸福に暮らしている。


一人の若者がこの楽園にやってきた。

現実世界の問題や苦しみから逃れるために、ついにこの場所を選んだ。


初めは新鮮な驚きに包まれていた。

楽園の空は常に晴れ渡り、花々は鮮やかに咲き、どこを見ても完璧な美しさが広がっている。

彼は日々を楽しむことに没頭し、もはや過去のことなど考えもしなかった。


しかし、時間が経つにつれて、違和感が芽生え始めた。

笑顔の住人たちは、どこか機械的で心がないように見える。


楽しさや喜びも、一度味わえばすぐに飽きてしまう。

何も新しいことが起こらず、どこまでも繰り返される日常が、次第に単調に感じられるようになった。


ある日、若者は楽園の管理者に問いかけた。

「ここには変化がないのですか?全てが完璧で、何も成長しないのですか?」


管理者は冷たい目で答えた。

「ここではすべてが理想的であるがゆえに、変化も成長も必要ありません。完璧な世界では、人間らしさも感情も、もはや意味を持たないのです。」


その言葉が胸に刺さった。そして、気づいた。


楽園の「完璧さ」は、実は「虚無」そのものであった。


どこにも逃げ場がなく、無限に続く同じ景色と、感情のない会話だけが続く世界で、ただ無感動に過ごすしかないのだ。


楽園の美しい景色が徐々に色あせ、冷たく無機質な空間へと変わっていく。


主人公の心は虚無の中で押しつぶされ、現実世界に戻ることもできず、ただ無限の空虚に閉じ込められた。

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