魔法のコイン

古びた店の扉が音を立てて開くと、ひんやりとした空気が流れた。

店内には様々な古い品々が並び、その中に「最善の選択」と書かれたタグのついた小さな箱が目立っていた。


客が箱を開けると、中には一枚のコインが静かに横たわっていた。

古びた金属のコインには奇妙な模様が刻まれている。


「この物をどう使えばいいのですか?」と客が尋ねると、店主は静かに微笑みながら答えた。


「このコインは、どんな選択にも最善の答えを示してくれるのです」と店主が言う。続けて、「ただし、かなりの対価が必要です」と付け加えた。


客はその説明に納得し、大金を支払いコインを手に入れた。


コインを手にしてから、客は様々な選択に直面するたびにそのコインを見つめ、心が落ち着くようになった。


特別な力があるのかはわからないが、

落ち着くことで選択に迷うことはなくなった。



数週間後、再び店を訪れると、店内は空っぽだった。

カウンターには小さなメモが残されており、そこにはこう書かれていた。


「最善の選択などありません。あなたが支払ったのは、私のポケットに直行した大金だけでした。コインの模様はただの装飾です。お楽しみください!」


店主の姿はどこにもなく、客はただのコインに大金を払っていたことを知り、静かに笑った。



店主の巧妙な嘘と、客の心に残る余韻は、どこまでも薄れゆく静けさの中に溶け込んでいった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る