エネルギーの法則 feat.毛

元気モリ子

エネルギーの法則 feat.毛

家庭用脱毛器で脱毛をはじめて早2年、腕の毛がほとんど生えなくなった代わりに、左腕から1本の長い白髪が生えるようになった。

説明書にそんなこと書いてあったか?


生まれてこの方、説明書と呼ばれるものはことごとく捨ててきた人生である。

今さら確認する術もない。


しかし、明らかに左の腕から白長い毛が生えている。


白長いと言えばシロナガスクジラだが、調べたところ白長いからシロナガスクジラではなく、白いナガスクジラとのことらしい。

では、ナガスクジラの語源が気になるところだが、私は今毛の話がしたいので今日のところはこの辺にしておく。


やはりエネルギーというものはゼロにはならないのだろうか。


何百本と生えていた産毛のエネルギーを消し去ろうなどとするから、こんなにも長い白髪が一本生えるようになってしまったのか。


消えたはずのエネルギーがこの一本に…


他に原因が見当たらない。

私のように脱毛をした代わりに一本の長い毛が生えるようになった事案など聞いたことがない。


「脱毛_一本の長い毛_生える」


全くヒットしない。

世界でただひとりの、ただ一本の毛なのか。



初めて気がついたのは、風そよぐ春の日だった。


毛がなびいたのだ。


本来なびく感覚など持ち合わせていない左腕で、何かがなびいたのだ。


それがこいつとの出会いだった。



ふと思う。

私は幸いなことに、一本の毛がその全てのエネルギーを背負い生えているが、他の脱毛した人たちは、その隠し持ったエネルギーをどこにしまっているのだろうか。


私のこの毛が本当に脱毛の遺産なのだとすれば、やはり毛たちのエネルギーは失われるのではなく、別のどこかで補完されていることになる。


VIO脱毛やヒゲ脱毛など、太黒い毛のエネルギーはこんなひょろひょろと比ではないはずだ。


・最近なんだか妙に眠たい。


・ずっと何かを食べてしまう。


・性欲が止まらない。



脱毛をはじめてから、上記のような三大欲求の増大が見られる人は、もしかするとそれは行き場を失った毛たちからのメッセージなのかもしれない。

今すぐ彼らを解放してやるしか術はない。



一度反射で抜いてしまったその毛は、今一度3センチほどにまで伸びてきている。


風を感じるには充分な長さだ。


今まで誰からも毛を指摘されていないところをみると、やはり人は自分が思っているほど自分のことを見ていないか、あまりの迫力に言葉を失っているか、のどちらかである。



こういう毛を宝毛と呼ぶらしい。


幸運の毛だ。


私はムダ毛を宝毛に進化させたのだ。



シロナガスクジラのヒゲはどんなだろうか。

鯨のヒゲはたしかぎっしり生えていたはずだから、あんなものを脱毛した日には、その膨大なエネルギーから、鯨は4倍ほどの大きさになってしまうかもしれない。

夢のある話だ。

そして、毛という文字はあまりに毛過ぎる。


そんなことを考えている今も、扇風機が私の宝毛をなびかせている。



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