第44話

「外……だぁ……」

思わず全身の力が抜けてしまいそうになったので、引き締めました。

最後の力を振り絞り、体を外へと持ち上げます。

草木の臭いがしました。


真夜中に泣いている犬の声も聞こえました。

それらは地下にいたときには絶対に味わえないものです。


私はグズグズと涙が出てくるのを我慢しながら穴の下を確認しました。

そこには穂波が待っています。

私はロープの先端を近くにあったフェンスにくくりつけました。


そしてもう片方を穴に投げ込みます。

ロープはスルスルと落ちていき、すぐに穂波のところに届きました。

穂波はそれを自分の腰に巻き付けて合図してきます。

「行くよ」


私は思いっきりロープを引っ張りました。

驚くほど簡単に穂波の体が上がってきます。

たった3日間でも相当な重さと量の石や土を運び出していたので、それが効いていたのかもしれません。


それに、穂波のやせ細った体のせいだったのかもしれません。

とにかくそれらのおかげで私達はふたりで地下から脱出することができたのです。

「やった、外だよ外!」


穂波が星空に両手を伸ばして喜びます。

穂波からすれば一ヶ月以上恋い焦がれてきた景色でした。

だけど、まだ油断はできません。


ここはやつらをアジトの中です。

私がさっきロープをくくりつけたフェンスは、敷地内を覆うように立てられているため、どこに出口があるかもわからない状態です。

「歩ける?」


「うん」

外へ出たことで少し元気が戻ってきたようで、穂波は強い足取りで歩きはじめました。

まずはフェンスをよじのぼることができないか確認してみましたが、それはとても背が高く、更にてっぺんにはギザギザの有刺鉄線が貼られていることに気が付きました。


あれに触れたら手はズタズタに傷ついてしまいます。

他に出口がないかと探しているとき、党のような建物からこちらへ向けて光が当たったのを見ました。

とたんに大きなサイレンが鳴り響きます。


その大きさに両耳を塞いでうずくまってしまったほどです。

「脱走者確認、脱走者確認」


機械的な女性の声がスピーカーから流れてきました。

「見つかった!」

さっきの光は施設内を巡回するものだと、ようやく気が付きました。

光の真ん中にいたため、姿を見られてしまったのです。


私は穂波の手を握りしめて走り出しました。

追手が来る前に出口を佐がないといけません。

でもどこに出口があるのかわからない。


走っても走ってもフェンスがどこまでも続いています。

すでに私は汗だくで、心臓は爆発してしまいそうなほど早く打っています。

ここで捕まってしまったら私達はどうなるでしょう?


脱走者として、もしかしたら処刑されてしまうかもしれません。

怖くて怖くて仕方なくて足を止めることもできなくなったとき、またライトが私達を照らしました。


それはとても低い位置からの光で、しかもフェンスの向こうから当てられています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る