第43話 大爆発
部屋を出ると診察室にいる先生はまだ伸びていました。
私達はその横をすり抜けて廊下へと出ます。
廊下はとても静かで人の気配はしません。
ここは医務室以外にはないようで他の人は別の場所で眠っているんだと思いました。
それから私はうまく歩けなくなってしまった穂波を気遣いながら、階段を下りて、また登ってを繰り返します。
「ここが、私がいた部屋」
いつもの部屋の前に到着して私はドアをノックしました。
もう寝てしまっているかと思っていましたけれど、すぐに佳苗ちゃんがドアの近くまでやってくる音が聞こえてきました。
「瑞希? 大丈夫なん?」
「佳苗ちゃん私は大丈夫だよ。穂波とも合流した」
「嘘やろ、ほんまにそんなことができるなんて……」
佳苗ちゃんの驚く顔が目に浮かんでくるようです。
鍵を開けることができれば絶対に佳苗ちゃんに穂波を紹介したかった。
「本当だよ。穂波、私の友達の佳苗ちゃん」
「はじめまして」
穂波がか細い声で言うと、中で息を飲む音が聞こえてきました。
そして「なんやぁ……そんなことができるんかいなぁ……」と鳴き声が聞こえてきて、それは下へ下へと移動して行きました。
ドアの前で泣き崩れてしまったみたいです。
そんな佳苗ちゃんにまた泣きそうになったけれど、私達にはやっぱり時間がありません。
「佳苗ちゃん今までありがとう。私達ここから出る」
「うん。うん。誰かが来ても絶対にあんたらのことは言わへん。だからはよ、行き!」
私は佳苗ちゃんの言葉に背中を押されて歩き出しました。
穂波のために時々休憩を挟みながら、土の通路を歩き進めます。
砂埃が体に良くないのか、穂波は何度も咳き込んでいましたけれど、それでも「大丈夫」と気丈に振る舞っていました。
そしてついに、たどり着いたんです。
星空が見える縦穴まで。
私は普段仕事で使っているロープを肩にかけました。
まずはここをひとりで登って、それから穂波を引き上げる作戦です。
「瑞希、大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ」
ここの土は柔らかくて登っていくのには適していません。
けど、やるしかないんです。
私は手を伸ばして穴に飛びつきました。
指先が土に食い込んでその先にある大きな岩を運良く掴むことができました。
そこから自分の体を持ち上げるのは大変な作業で、下から穂波がお尻を押してくれました。
だから私は穴の側面に両足をかけることができたんです。
穂波がいなければそこまでのことはできていなかったと思います。
それから先は時間と体力との勝負です。
上へ上へ、ただひたすら登ります。
丸く見える空だけを見て。
穴がどれくらいの深さになるのかは考えないようにしました。
空はとても小さく見えたからです。
「ふぅ……ふぅ……」
しばらく進むとさすがに疲れてきて、一度止まって呼吸を整えました。
もちろん、手足で両壁に突っ張るようにした状態のままです。
これを離してしまえば、真っ逆さまです。
そしてまた私は上を目指しました。
柔らかな土のせいで何度も数センチずり落ちたり、岩を掴んだつもりが石だったり、危機は繰り返されます。
だけど見えている空は確実に大きくなっていくんです。
すぐ目の前に迫ってくるような迫力も感じた次の瞬間です。
伸ばした手が外気に触れました。
指先が草を掴みました。
そのまま体を引っ張り上げると、首が外へ出ました。
秋が近くなった夜の風が私の頬をなでていきます。
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