第39話 仮病

その夜のことです。

私はうんうん唸り声を上げて布団の中で何度も何度も寝返りをうちました。

「ちょっと、どうしたん?」


佳苗ちゃんが気がついて豆電球をつけて様子を診てくれます。

私は体を曲げてお腹を押さえ、うんうんうなってしかめっ面を続けます。

「大丈夫? お腹痛いんか!?」


佳苗ちゃんに揺さぶられても私は演技をやめません。

これが緊急事態だと思ってもらわないといけないからです。

「大変や! 誰か! 誰か来て!」


佳苗ちゃんがドアへと飛んでいきますが、そこには鍵がかけられています。

私達が勝手に逃げ出さないようにです。

「誰か来て! お願い!」


佳苗ちゃんがドンドンと内側からドアを叩いていると、人の足音が近づいて来ました。

私は尚更に大きな声でうんうん唸り声をあげます。


布団の中をゴロゴロと転がり周り「痛い、痛い」と呟きました。

すると中にあの女の人が入ってきて、私に近づいて来ました。

女の人はすぐに「医務室につれていく」と佳苗ちゃんへ言うと、私の体を抱き上げました。


いわゆるお姫様抱っこというやつです。

私は女の人の腕の中で佳苗ちゃんと目を見交わせました。

佳苗ちゃんはすべて演技だとわかった上で、付き合ってくれたのです。


今ならドアの鍵も開いています。

だから佳苗ちゃんも一緒に外へ……そう合図したつもりでしたが、佳苗ちゃんは少しだけ笑ってみせただけでひとり部屋の中に残ってしまいました。


私を連れて外へ出た女の人は丁寧に鍵をかけ直し、そしてまた歩き出しました。

きっと行き先は医務室です。

そこに穂波がいる。

そう思うと緊張して心臓がドキドキしてきてしまいました。


「先生、急患です」

階段を登ったり下ったり、鍵付きのドアを開けたり閉めたりしてたどり着いた先は、清潔な部屋でした。


白い天井に白い壁に白い床。

そこに置かれているものたちはみんな実際の診察室にあるようなものばかりで驚きました。


「どうした?」

椅子に座ったまま振り向いた男性は50台後半くらいで、色の白いヤセ型の人でした。


これが闇医者とかヤブ医者とか呼ばれている人みたいです。

「腹痛です」

「ふん。そこに寝かせて」


女の人が私をベッドへと寝かせます。

他にベッドがあるようには見えないので、私以外にここに労働者はいなさそうです。

「痛い、痛い……」


私はベッドの上でまたのたうちまわりました。

「どこ辺が痛い?」

私は適当な場所を手で押さえて見せました。

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