第38話

「あの、聞きたいことがあるんですけど」

佳苗ちゃん以外の子たちとはまだあまり会話したことがなかったので、緊張しました。

「なに?」


1日目のとき大笑いした子がこちらへ視線を向けます。

その顔は佳苗ちゃんよりも黒くて、白い目だけがギョロギョロと動いているようで、夜中にトイレに行くまでの廊下で出会ったら、絶対に悲鳴を上げていたと思います。

名前はユッキー。


本名は教えてくれませんでした。

「私、友達を探しているんです。小学校6年生の小田穂波って子を知りませんか?」

そう質問するとユッキーが振り向いて他の子たちに同じ質問をしてくれました。


個々でおにぎりを食べていた子たちが「知らない」「わかんないなぁ」と呟きます。

誰も穂波のことを知らないようでガッカリしました。

穂波はどこの班で仕事をしているんでしょうか?


仕事中は自分の仕事をしなきゃいけないので、そっと抜け出すことも難しいのです。

監視員にバレたらむち打ちの刑です。

どうすれば穂波と会うことができるか考えていたとき、奥にいたひとりが「あっ」と声を上げました。


「もしかしてそれって細い、ガイコツみたいな子?」

ガイコツとは随分失礼な言い方です。

だけど穂波は病弱であまり肉はついていない体つきをしていたので、私は頷きました。


「それなら1日だけ一緒の部屋にいた子かもしれない。あまりにも使い物にならなくて、すぐに別部屋に移されたけど」

「それってどこですか!?」


身を乗り出して質問すると、その子は眉間にシワを寄せて「さぁ、そこまでは私も知らないんだ」と申し訳無さそうに言いました。

ガイコツと思われていた子が穂波だったとしても、ここで情報は途切れてしまうことになります。


なんでもいいから、少しでもいいから手がかりがほしくて「なにか思い出してください! お願いします!」と、頭を地面に擦り付けて懇願しました。

そのときです、佳苗ちゃんが「もしかしてさぁ」と呟いたのです。


「労働で使えへん子たちが集められる場所があるらしくて、そこにいるかもしれんよ?」

「それってどこ!?」


答えてくれたのはユッキーです。

ユッキーはこの班の中では一番ここにいる歴が長いので、人よりも詳しいようでした。

「あぁ、それって医務室のこと?」


「医務室?」

学校で言う保健室のことだと佳苗ちゃんが教えてくれました。

ここにも体調を崩したり大きなケガをした人を診てくる場所があるのだとわかり、驚きました。


「私も1度どうしてもお腹が痛くて、連れて行かれたことがあるよ。その時は盲腸だったけれど、点滴を打ってもらったら治ったんだ」

「そこには病院の先生もいるんですね!?」


「一応な。みんな闇医者とかヤブ医者とか言ってるけど」

「でも、盲腸は治ったんですよね!?」

「うん。治った」


ユッキーは親指を立てて答えました。

闇医者だろうがヤブ医者だろうが、穂波の病気をちゃんと治療しているのなら問題ありません。


これで穂波と生きて会える可能性がうんと増えたんですから。

それから仕事に戻った私ですが、頭の中ではずっと計画をねっていますた。

どうしたら穂波に会うことができるのか……。

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