第37話 探し始める
ここでの生活が3日目になったとき、私はようやく穂波を探し出そうと動き出しました。
3日目ともなると1日の時間割はもう覚えています。
朝ごはんを食べて、仕事をして、ブザーの音で休憩に入り、ブザーの音で仕事を再開し、そしてブザーの音で1日の仕事が終わる。
仕事が終わるときには上へと続く穴から見える太陽はすでに沈んでいて、星がきらめいています。
そんな寄る前仕事をするのですから終わったときにはもうグッタリで、夕飯もろくに食べずに眠ってしまいます。
そして気がつけば朝になり、また仕事が始まるのを繰り返しているのです。
そんな中で1度だけあの女の人が私用にと勉強道具を持ってきたことがあります。
それは学校で使っている教科書と全く同じもので、見た瞬間懐かしくて泣いてしまいそうになりました。
「それで勉強すんねん。それでひと月に1度のテストで合格点を出せば、ここから出られるらしいわ」
そう聞いて私は目を丸くしました。
ここでの生活で勉強時間を取ろうと思うと、朝ごはんの前に勉強するしかありません。
それで合格点を取るというのはかなり難易度が高いはずです。
「佳苗ちゃんは勉強してるの?」
「できるわけないやん。毎日クタクタで週に1度の休みの日には爆睡してるんやから」
佳苗ちゃんはそう言ってペタンコの枕をはぐってみせました。
そこには佳苗ちゃん用の教科書が置かれていて「これで高さ調節してるねん」と、佳苗ちゃんは楽しげに笑いました。
ここを出るためには勉強も仕事もできないといけないとわかり、絶望的な気分になりました。
同時に、だから何年もここから出られない子たちがいるのだということも納得しました。
仕事をサボっていると監視員たちがすぐに気がついて罰を与えに来ますから、みんな怖くてサボることはできません。
監視員たちが私達に与える罰はその場で背中にムチを当てるというやり方です。
作業着の上半分だけ降ろされて下着の上からムチ打たれた肌はミミズ腫れになって何日間も熱を持ち、仰向けに眠ることもできなくなるそうです。
とにきは熱を出して寝込んでしまう子もいると聞きました。
そんな恐ろしい監視員がいる前でサボることはできず、結局みんな疲れ果ててしまうんです。
こんな状態が続けば私は勉強するどころか今まで学校で覚えてきたことまで忘れてしまいます。
そうなってしまう前に穂波を探し出して脱出しなければいけません。
私はいつもどおりみんなと一緒に仕事をして、昼の休憩時間になるのを待ちました。
仕事3日目の今日は手のひらに沢山の豆ができて痛くてたまりませんでした。
だけどみんなの邪魔にはなりたくなくて一生懸命ロープを引きます。
「せーのっ! せーのっ!」
と、みんなと同じように何度も掛け声をあげて力を込めている内に手のひらのマネが潰れて汁が出て、余計に痛くなりました。
破れた豆にロープがこすれると痛くて涙が出そうになります。
だけどみんなもこれを乗りこえて来たんだから、ひとりで泣いているわけにはいきません。
必死に午前中の仕事を終えて、おにぎりにかぶりついているとき、同じ班の女の子たちへ視線を向けました。
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