第32話
「私は友達を探してここに来たの」
「え? 友達?」
私は驚いている佳苗ちゃんにここへ来た経緯を説明しました。
夏休み中に友達がいなくなったこと。
調べていくうちに成績表に隠されいた『人間的評価』について知ったこと。
そしてわざと悪いことを繰り返して、ここまでたどり着いたこと。
私が説明している間中、佳苗ちゃんは口を半分開けて目は大きく見開いたまま固まっていました。
「驚いた。まさか自分から進んでここに来る子がおるなんてなぁ」
佳苗ちゃんはそう言うとマジマジと私の顔を見つめました。
なんだかくすぐったい気分になって目をそらすと、壁に引っ掻いたような傷跡が沢山あることに気が付きました。
「ねぇ、この傷はなに?」
「あぁ、それな。たぶん前にこの部屋を使こうてた子がつけた傷や。ここにおったら曜日感覚がなくなってくるから、一日ひとつ傷をつけとったんちゃうかな」
「そうなんだ」
その傷を視線で追いかけていくと300以上はあったので、すぐに数えることをやめました。
「それで? その友達ってなんて名前なん?」
「穂波。小田穂波っていう子なの。知ってる?」
「小田穂波……ごめん、私は知らんかも」
「1年ここにいて知らないってことは、穂波はここにはいないってことかな?」
私の質問に佳苗ちゃんは左右に首を振りました。
「ううん。そうとちゃうよ。ここの仕事は班ごとに別れているから、何年いても顔を合わさへん子も沢山いるんよ」
「そうなんだ……」
仕事で言う班とは、きっとクラス内の班とは全く違うものなのでしょう。
顔を合わさないということは、クラス分けとも違って、もっともっと遠い存在なのかもしれないと思いました。
そんな中から穂波を探し出すことができるのかどうか、さっそく不安になったときでした。
部屋にノック音が聞こえてきてドアが開いたのです。
ドアの向こうに立っていたのは背の高い女性で、反射的に公園の外を歩いていた人だと思いました。
この時はマスクも帽子も外していたので、すぐに女性だとわかりました。
「起きてたか。仕事内容を説明する」
女の人は無表情で私を一瞥して、部屋に入ってきました。
狭い部屋に大人の人がひとり入ってくるともうスペースはありません。
私と佳苗ちゃんは部屋の奥で身を小さくして話を聞く体勢になりました。
「これがこの現場の地図だ」
女性はそう言うと画用紙を広げました。
古ぼけた画用紙には地図のようなものが書かれています。
「ここが作業班Aの現場。主に男が力仕事をしている。お前は作業班Cで穴から石や砂を引っ張り上げる作業をしてもらう」
「やった。私と同じやで」
佳苗ちゃんが嬉しそうに耳打ちしてきました。
でも、石や砂を引っ張り上げる作業だって十分力仕事のはずです。
その職場では、それが軽作業にあたるみたいです。
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