第31話 地下施設
目が覚めた時、私は見知らぬ部屋にいました。
周りは薄暗くて豆電球が天井から下がっています。
横になっている場所は布団の上でしたけれど、あまりにペタンコなので体のあちこちが痛くなっていました。
上半身を起こしたところで部屋の中もうひとり人がいることに気がついて「うわぁっ」と、声を上げてしまいました。
相手の顔が毛むくじゃらに見えて、猿人を思い出したからです。
だけどよく見てみると顔に毛が生えているのではなくて、顔が真っ黒に煤けているのです。
「おはよう」
ニッコリと笑いかけてくれた真っ黒な顔の子は、私と同年代くらいの女の子でした。
言葉は関西訛りです。
「お、おはよう……。ここはどこ?」
どうやらこの部屋は二人部屋のようですけれど、とても狭いです。
用務員室の半分くらいしかありません。
女の子と私が横になったら、もう部屋のスペースはほとんどなくなってしまいます。
「ここは地下施設やよ」
「地下?」
どうりであたりが暗いはずです。
よく見てみると、部屋の中に窓はひとつもありません。
天井の上の方に換気扇がつけられていて、それがカラカラと回転しているだけです。
「どうして地下施設なんかに……」
そこまで言って私はようやく真っ昼間に誘拐されたことを思い出したのです。
黒いワゴン車に押し込められて注射を打たれたときの恐怖が蘇ってきて全身が震えました。
「怖がらなくてもええよ。ここでは仕事勉強をしておれば大丈夫やからね」
「仕事?」
私にできる仕事なんかがあるんでしょうか?
知識も経験もなにも持っていないので更に不安が襲いかかってきました。
「そう言えば自己紹介がまだやったね。私は佳苗。あなたは?」
「私は瑞希。小学校6年生だよ」
「そっか。じゃあ私よりひとつ下なんやね」
「中学生なの?」
「うん。でも去年からここにおるから、まだ小学生の気分」
佳苗ちゃんはそう言って笑って見せました。
「佳苗……ちゃんは、もう1年間もここにいるの?」
「うん。でももっと長い子もおるよ。『人間的評価』欄が適応されてから10年やろう? 長い人は10年間ここにおる」
佳苗ちゃんも『人間的評価』のことを知っていたので驚きました。
だけどここでは当たり前の知識なのかもしれません。
だって、こここそ、『人間的評価』がマイナス100になった子どもたちが連れてこられる場所だったんですから。
それから佳苗ちゃんとは色々と話をしました。
佳苗ちゃんは小学校時代はずっと荒れていて、タバコやお酒にも手を出していたこと。
ある日クラメートを階段から突き落としてしまったことが大きなキッカケとなってここへ来たこと。
「佳苗ちゃんは○○小学校だったの?」
「ううん。私は××小学校やよ」
驚くことに別の小学校でもこの『人間的評価』が適応されていました。
ここにはいろいろな小学校から集められてきた子供たちがいるみたいです。
「ところで、瑞希ちゃんはなにをしてここに来たん?」
その質問に私はようやく本来の目的を思い出しました。
ここへ来てから驚くことばかりで、すっかり忘れてしまっていたのです。
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