第29話 連れ去られる
「次の問題を久保田さん」
先生の声が聞こえてきても私は机に突っ伏して返事をしません。
目を閉じて眠っているふりをしています。
そんな私に「またかよ」とつぶやく声が飛んできます。
それも無視です。
「久保田さん、いい加減にしなさい!」
バンッと黒板を叩く音がして、咄嗟に身を起こしてしまいました。
担任の先生が真っ赤な顔をしてこちらを睨みつけています。
クラスメートたちが迷惑そうな顔でこちらを見ています。
私はまるで『いらない子』になってしまったような気持ちになり、落ち着かない気分になりました。
「どうしてあなたはそんなにわがままなんですか!?」
親身になってくれた先生がついにキレた瞬間でした。
なにを言っても言うことを聞かない。
寄り添っても心を開かない。
そんな子、可愛くない決まっていますよね。
だから先生がキレたのは正解だと思っています。
だから私はそれに便乗して思いっきり椅子を後ろに倒しながら立ち上がりました。
そのまま大股で教室のドアへと向かって歩きます。
「待ちなさい!」
先生の声が飛んできて終わりかと思ったら、後ろから手首を掴まれて引き戻されました。
その力の強さに驚いて振り向くと、先生のつり上がった目と視線がぶつかりました。
「痛い!」
私は叫び声をあげて先生の手にかぶりと噛み付くと、そのまま教室から逃げ出しました。
逃げている間にまだ涙がボロボロとこぼれてきて止まりませんでした。
教室ではきっと私が悪者になり、手を噛まれた先生が心配されていることでしょう。
一気に階段を駆け下りて昇降口へと向かったとき、掃き掃除をしている用務員さんに気が付きました。
思わず足を止め、体全体で呼吸を繰り返します。
「おや、君は……」
用務員さんがなにかを言いかける前に自分の靴を履き替えました。
この日はもう、授業に出るつもりはありませんでした。
「大丈夫かい?」
心配そうに声をかけてくる用務員さんを無視して外へ飛び出しました。
今誰かに優しくされたら、悪い自分じゃなくなってしまいます。
私は学校から逃げて、家にも戻らず、誰もいない公園にたどりついたのでした。
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