第26話
☆☆☆
わざと評価をマイナス100にするというのは、思っていた以上に難しいことでした。
いままでいなくなった子たちは何年かかけて評価が下がっていったはずです。
それを2学期中にしようとするのですから、簡単なわけがありませんでした。
「最近疲れてるみたいだけど、大丈夫か?」
放課後、公園のベンチに座っていると正樹がやってきて隣に座りました。
「え、そう?」
「そうだよ。顔色も悪いし」
正樹はそう言いながらカバンから小型のペットボトル爆弾を取り出しました。
公園に立ち寄ったのはこれを試してみるためだったのかとわかり、ちょっとだけガッカリしました。
正樹がペットボトル爆弾を砂場にセットしているのを見ながら私はため息を吐き出しました。
今日は学校で教卓を横倒しにして暴れてきました。
そのせいで体力が尽きかけていて、とてもしんどいのです。
吉岡勇くんが暴力的な生徒だったことを模範してやってみたのですが、こういうのは私にはまり向いていないようでした。
「昨日、先生が家に来たんだろ?」
爆弾をセットし終えて砂場から離れながら正樹が聞いてきました。
「うん。特別家庭訪問だって」
2学期に上がってからの私の態度があまりにも問題なので、先生が弾丸で家庭訪問にやってきていました。
先生から話を聞いていたお父さんお母さんの顔が脳裏にこびりついています。
ふたりともとても驚いた顔をして、お母さんは次に泣きそうな顔になりました。
お父さんはずっと眉間にシワを寄せて険しい顔で先生の話を聞いていました。
さすがに、そんなふたりを見ていると心苦しくなってきて、私はすぐに自分の部屋にこもってしまいました。
ごめんねごめんねごめんね。
心の中で何度もふたりに謝りましたけれど、実際にそれを口にはしませんでした。
『どういうことか説明しなさい』
ドアの向こうからそう声をかけてきたお父さんへ向けて『うるさい、黙れ!』とだけ、返事をしました。
バンッ! とペットボトル爆弾が爆発する音が聞こえてきて我に帰りました。
砂場の方へ視線を向けると、小型だったのに関わらず砂があちこちに飛び散っていました。
「すごい威力だね! 前に試してたのより強くなった?」
思わず興奮してそう聞きました。
すると正樹はニッと笑ってふりむき「おう。そうなんだ」と、答えました。
もうすぐこの笑顔を見られなくなるかもしれない。
そう思うとなんだか切ないような、苦しいような気持ちになりました。
私の『人間的評価』は今どのくらいまで下がっているでしょうか。
きっと、もうすぐ私もいなくなります。
だけど戻ってくる。
穂波を連れて、絶対に。
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