第24話 マイナス100
『連れて行かれた先で本人が頑張らないと、戻ってくることはできない』
用務員さんの言葉を何度も何度も思い出してあまり眠れない夏休みになってしまいました。
穂波はどこへ連れて行かれて、なにをさせられているのか?
それは用務員さんでも知らないことでした。
それならやっぱり先生に質問しに行こうかと思ったんですが、用務員さんに強く止められてできませんでした。
きっと、成績表の秘密に気がついてしまったことで、ただじゃおかなくなるんでしょう。
そうなったら『人間的評価』が一気に下がってしまうのかもしれません。
用務員さんはそれくらい必死になって私と正樹を止めましたから。
でもこれまでの行動のおかげで色々と見えてきた部分はあります。
穂波を助けるための次の行動も、実はもうこのときに決まっていました。
「正樹、私2学期で『人間的評価』をマイナス100にする」
夏休みが終わる前日の夕方です。
私は公園に正樹を呼び出してそう宣言しました。
2学期が始まるギリギリになってこんなことをしたのは、自分の決意が揺らがないようにするためです。
私達の門限まであと30分を切っているから、正樹が私を説得したとしても時間が足りなくなると思ったからです。
「本気で言ってんのか?」
夕方の公園は子供たちが少なくなりますから、正樹はペットボトル爆弾を持ってきてしました。
砂場で試してみるつもりなのでしょう。
「うん。だって、そうしないと穂波に会えない」
私はベンチから伸びている自分の長い陰を見つめて言いました。
隣の正樹の顔を見ると、やっぱりちょっとだけ気持ちが揺らいでしまいそうだったからです。
「危険かもしれないぞ? いなくなった子たちは戻ってきてないんだから」
「だけど死んだとは言わなかったよね? きっとみんな生きてる。そこで頑張って戻ってこようとしてるかもしれない」
そうであってほしいという願いを込めて言いました。
いなくなった先で、帰れるように努力していてほしい。
そうすれば、私も探していたことを後悔しないことでしょう。
「そりゃ、そうだけど……」
正樹が砂場へと向かいました。
ペットボトルを砂の中に埋めて、なにやら準備したあとすぐに砂場から離れました。
それから10秒ほど経過したとき、砂の中からバンッ!と弾ける音がして砂が四方八方に飛び散りました。
砂の中からは破裂したペットボトルが顔を出しています。
「すごいじゃん。今までで一番の威力じゃない?」
「おう。だんだん強くしていってるんだ」
「そっか。本格的な爆弾はどうなったの?」
「そっちも順調。でも、試してみる場所はないかもなぁ」
正樹が砂場へと戻っていきます。
私はオレンジ色に染まるその背中をジッと見つめました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます