第23話
「でも表に出ている欄はすべて成績表を受け取る子供と親に向けたもので、わかりやすくしてある。『人間的評価』っていうのは、もっともっと心の深い部分を評価してるんだよ」
「いなくなった友達は『人間的評価』がマイナス100になっていました。マイナス100になるといなくなっってしまうんですか?」
私が質問すると、和らぎ始めていた用務員さんの表情が、また険しくなってしまいました。
「そうか。君たちはよく観察してるんだね。そこまで知っているのなら、もうごまかすことはできないだろうね」
そう言って深くため息を吐き出すと、私と正樹を交互に見つめました。
「いいかい?『人間的評価』っていうのはさっき言ったように、深い部分を評価したものなんだ。それがマイナス100になるということは、このまま社会に出ていっても通用しないという意味になる」
「でも、評価するのは先生なんですよね? 学校での私達しか知らないのに、深いところまで評価できるとは思えません」
私たちにだって沢山の顔がある。
学校で友達に意地悪をしている子が、外では野良猫に餌をあげていたりするし、いい成績の子が家では全然勉強せずにゲームばかりしているときだってある。
学校で見せている顔がすべてじゃない。
すると用務員さんは悲しそうに眉を下げました。
「そうだね。君の言う通りだ。学校にいるときだけですべてを判断することはできないはずなんだけどなぁ……でも、もう『人間的評価』をすることが決まってしまった。その欄ができたのは10年前からで、最初はもちろん反対する先生や保護者の人も多かったけれど、今では誰もなにも言わなくなってしまった」
10年も前からあの欄があったことにも驚きましたが、今の用務員さんの説明にはもっと驚くべきことが隠されていました。
「私達の親もあの欄があることを知っているですか?」
聞くと、用務員さんは頷きました。
不意に、穂波のお母さんが『ターゲット』と言う言葉を使ったことや、吉岡勇くんのお母さんが『人間的評価』の欄が全員にあることを知っていたことを思い出しました。
あれは、親たちも自分の子供がいなくなる可能性があることを知っていたから言えた言葉だったんです。
「穂波は……私の友達は病弱でなかなか学校に来れなかっただけです。どうして『人間的評価』がマイナス100になってしまったんですか?」
「そうか。体が弱いことで社会に出てもまともには働けないと思われたのかもしれないなぁ。『人間的評価』には成績や生活態度はもちろん、出席日数も大きく関係してきている。君の友達は、そういうところでどんどん評価が低くなってしまったんだろう」
「そんな!!」
穂波は学校に来たくても来れなかったんです。
みんなと一緒に授業を受けたくても受けられなくて、いつも家や病院で勉強をしていました。
そんな穂波の『人間的評価』がマイナス100だなんてひどいと思いませんか?
正直、吉岡勇くんのような乱暴者の評価が下がるのなら納得できます。
だけど穂波はなにもしていない。
頑張って病気と戦っていたのに……。
そう思うと悔しくて、無意識のうちに下唇を噛み締めて涙を我慢していました。
今顔の筋肉を緩めるとすぐにでも涙がこぼれ落ちてしまいそうです。
「どうしたら穂波に会うことができますか?」
私は歯を食いしばってそう質問しました。
それが一番知りたいことです。
だけど用務員さんはまた左右に首を振って「連れて行かれた先で本人が頑張らないと、戻ってくることはできない」と、言ったのでした。
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