第22話
「わかった。私が教えてあげるから、こっちへおいで」
用務員さんはそう言うと私達に背を向けて歩き出しました。
どうしても先生たちのところへは行かせたくないようです。
私達としては『人間的評価』のことがわかれば、話を聞かせてくれる相手は誰でもいいので、素直にその後をついていきました。
☆☆☆
用務員さんにつれてこられたのは、1階の奥にある用務員室と書かれた部屋でした。
そこに入るのはもちろん初めての経験で、少しだけドキドキしました。
中は6畳くらいの和室になっていて、テレビやテーブル、ポットなどが置かれています。
部屋の奥にはたたまれた布団まであって、ここで寝泊まりできるような雰囲気でした。
「そこに座って」
用務員さんに言われて私と正樹はテーブルの手前側に座りました。
用務員さんは小型冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注いで出してくれました。
ここまで全力でかけてきた私はこのときようやく体が熱を持っていることや喉の乾きに気がついて、コップの麦茶を一気に飲み干してしまいました。
用務員さんはすぐに次をついでくれたので、それにはチビチビと口をつけました。
「その欄について、どうして気がついたんだい?」
少し落ち着いてきた様子で、用務員さんが質問してきました。
用務員さんの青ざめた顔は、元の色に戻ってきています。
汗も、このときには止まっていました。
「友達がいなくなったんです。それで、色々と調べていたらこの学校からいなくなった子がまだ他にもいて、その子たちの成績表にはこの欄が出てきていたんです」
正樹が上手に端的に説明してくれます。
私はそんなに短くわかりやすく説明することができないので、関心しました。
「そうか……」
用務員さんはそれだけ言うと腕組みをしてうつむいてしまいました。
その時間があまりにも長いので、もしかして眠ってしまったのではないかと、心配になったほどです。
用務員さんはたっぷり5分間ほどそうしてから、ようやく顔を上げました。
その表情はなにかを決意しているように見えて、私は自然と居住まいを正しました。
「その欄は、本当は隠しておかなきゃいけないものだったんだ。該当する生徒の成績表にだけ、表示されるんだからな」
「それを、私達は炙り出してしまったんですね?」
「そういうことだな」
私が言うと、用務員さんは難しそうな顔で頷きました。
まるで、悪いことをして咎められたときのような気持ちです。
成績表を炙ってみるというのは決していい行為ではないし、悪さした気持ちになっても普通なのかもしれません。
私は目の前の麦茶を一口飲んで、その罪悪感を飲み干しました。
「『人間的評価』っていうのはな、そのままの意味なんだよ。学校生活を見ていて人間的のこの生徒はどうなのか? それを、先生たちはこっそり評価してるんだ」
「どうしてこっそり評価するんですか? 『すすんで行動できる』とか『責任感がある』とかも人間の内面を見た評価だから、同じじゃないんですか?」
「君は鋭いね、確かにそのとおり。同じ意味を持っているものだよ」
正樹が褒められたので、私はまた関心しました。
思えばそうです。
成績表の右側にある欄は私達の行動、言動を元に評価してあるので、それは総じて『人間的評価』といことじゃないんでしょうか?
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