第21話 再び学校へ
成績表の隠された欄を発見してからいても立ってもいられず、その日のうちに学校へと来ていました。
もちろん、マッチの火はちゃんと消して、洗面所の水も流してからです。
36度の気温の中自転車をこいでいても気にならないくらい、私達は興奮していました。
なんだか、少しだけ行方不明者の謎を解くことができたような、そんな気になっていたのです。
もうすぐ穂波に会うことができる。
そんな気すらしていました。
そうして学校までやってきた私達はすぐに校舎内へと入り、昇降口でスリッパに履き替えました。
上靴は持ち帰って洗っているからです。
新学期をきれいな上履きではじめたいので、ここで使うことはありません。
そして2階の職員室へと向かおうとした、そのときでした。
タイミングよく作業服姿の用務員さんが廊下の奥から姿を見せたのです。
もしかしたら用務員室には監視カメラがあって、校内の様子を監視しているのかもしれない。
そんなタイミングでした。
「やぁ、また君たちか」
用務員さんは私達の姿を見ると嬉しそうに笑って近づいて来ました。
私と正樹も立ち止まり、お辞儀を返します。
こんなことをしている暇ではありませんが、用務員さんは学校に努めて長い人なので、なにか話を聞けるかもしれません。
「実は気になることがあって先生に質問しに来たんです」
私が言うと用務員さんはクシャクシャの目尻で笑って「夏休みの宿題かい?」と、質問してきました。
私は首を振って、持ってきていた成績表を見せました。
火に炙られて色の変わった成績表を見た瞬間、用務員さんの顔から笑みが消えていきました。
「これのことを聞いたいんです」
成績表を開いて問題の欄を用務員さんに見せると、用務員さんがサッと青ざめてしまいました。
それは目で見てわかるほどの変化で、こちらがとまどってしまったほどです。
「成績表を炙ってみたらこの『人間的評価』って欄が出てきたんです。なにか知りませんか?」
用務員さんの変化に驚いて固まってしまった私の代わりに横から正樹がそう質問して来れました。
用務員さんは額から流れてきた汗をてぬぐいでぬぐって「それを聞きにいくべきじゃない」と、震える声で言いました。
「どうしてですか?」
私はやっと声を絞り出して質問を再開させました。
だけど、これ以上聞くべきじゃないと心の中で考えている自分もいます。
私たちはなにかとんでもないことを暴こうとしているんじゃないか。
そんな不安が急に押し寄せてきたんです。
ここまで来たらもうやめられない。
それだけで質問を重ねていきました。
「用務員さんも、これがなんの欄なのか知ってるんですね?」
用務員さんはまたぬぐってもぬぐっても流れてくる汗を何度もふきながら小刻みに頷きました。
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