第20話
それは秘密の手紙を受け取り解読するという内容のもので、水につけて文字が出てきたり、逆に火にあぶったら文字が出てきたりしました。
それを正樹に伝えると、正樹が目を輝かせて「文字は隠されてるってことか!」と手を打って言いました。
もともとこの成績表には文字が書かれていて、でもそれは隠されている。
行方不明になった子たちの成績表だけは、文字がちゃんと読めるようになっている。
そう考えれば納得です。
私達はさっそく脱衣所へ向かい、洗面所に水を張りました。
紙が水に使ったらその後使いにくくなりますが、成績表に使われている紙は普通のプリントと違って厚紙になっているので大丈夫だろうという判断になったんです。
先にコンロで火に炙ることも考えましたが、紙を火にくべるというのがはっぱりちょっと怖くて、後回しにしました。
もし水で文字が浮かび上がってきたら、火で炙る必要もないので。
「じゃあ、やってみるよ」
1年生の頃の成績表を水に浮かべます。
プアプカと浮かんでいるそれを指先でつついて、少しだけ沈めて見たり、水の中でクルクルと回転させてみましたが、文字はなにも浮かんできません。
続いて2年生の頃の成績表、3年制の頃の成績表を試していきましたけれど、なにも起きませんでした。
「どうする? やめておく?」
これ以上成績表を水で濡らしても変化はなさそうだったので、私は隣にいる正樹へそう聞きました。
正樹は渋面をつくってため息を吐き出し「そうだな」と、短く答えました。
水でダメなら今度は火です。
やっぱり少し怖いのがあって、私はコンロの火をつけるのをやめてリビングの戸棚からマッチを取り出しました。
お父さんが時々行くスナックというお酒を飲む場所でもらってくるものです。
ライターも使ったことがない私はマッチを前にして動けなくなってしまいました。
この赤い頭の部分を箱の側面にこすりつけて火を起こすことは知っています。
でも、それってすごく危なくないですか?
マッチの持ち手はとても短くて、花火みたいに離れた先端から火が出るのではありません。
指のすごく近くで火が出るんです。
だけどコンロの火よりは弱くて、火事になる心配が少ないと思ったんです。
私達は成績表とマッチを持って水をためたままにしてある洗面所へと向かいました。
もし紙に火がついたときにすぐに消すためです。
「瑞希は紙を持ってて、俺がマッチに火を付けるから」
正樹がそう言ってくれたので、私は素直に従いました。
もともと正樹は爆弾作りなんかをしているから、火には慣れているんです。
正樹がマッチをするとシュッと音がして一瞬大きな火が起こり、花火の火薬と同じニオイが部屋に立ち込めました。
それから火はすぐに小さくなって、可愛らしいサイズでユラユラと揺れます。
私が成績表を開いて持つと、正樹がその下にマッチの火を近づけました。
成績表は4年生のころのもので、水には濡れていません。
マッチの火の先端が紙にふれてジワジワと紙の色が茶色くなってきます。
これ以上火を近づけていると燃えてしまうかもしれないという不安感が湧いてきたときです。
成績表の白い部分に文字が浮かび上がってきたんです!
信じられないかもしれないけれど、現物を私達はまだ持っています。
確かに、成績表には隠された文字があって、それは炙ることで出てきたんです。
きっと、行方不明になった子たちの成績表は普段隠されているその文字が、そのまま印刷されていたんでしょう。
それを見た大人たちがなにかに気が付き、理解するために。
「『人間的評価 マイナス0』」
浮かび上がった文字を私はそのまま読み上げました。
それは私達の成績表には書かれていないと思い込んでいた人間的評価欄だったんです。
それを見た瞬間背筋がゾッと寒くなりました。
幸いだったのは私の数字が『0』だったことです。
いなくなった子たちと違うところがそこにあったからです。
それから5年生の成績表を確認してみても、やっぱろ同じように文字が浮かんできました。
こちらも数字は『0』でした。
「この数字、もともとが『0』で、そこからどんどんマイナス評価されていってるのかもしれないな」
気がついたように正樹が言いました。
プラス評価ではなく、マイナス評価。
だからマイナス100なんていう数字になっていたのでしょうか。
「成績表をつけているのは先生たちだ。やっぱり、先生たちはなにか隠してるんだよ」
正樹が真剣な表情で言いました。
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