第18話
「お母さん、早く次のを見せてよ」
たまらず正樹が声をかけました。
それで我に返ったようにお母さんがほほえみました。
「やっぱりこんなのは見なくていいのよ。だって、大輔はちゃんとこうして帰ってきたんだもの」
そう言うと、せっかく持ってきてくれた成績表を握りしめるようして持つと、立ち上がってしまいました。
このままでは片付けられてしまいます。
「あ、あと一枚なんだから見せてよ!」
正樹が咄嗟に立ち上がり、通せんぼをして行く手を阻みました。
私も勢いで立ち上がり、大輔くんのお母さんの後ろに立ちました。
「成績なんてどうでもいいの。学校だって行かなくていい。ただ、お母さんのそばにいて頂戴」
大輔くんのお母さんがフラフラと正樹に近づいて行きます。
それはまるで壊れたお人形のようで、おぼつかない足取りです。
やっぱり大輔くんのお母さんはおかしくなっているんだ。
そう思った私は大輔くんのお母さんに体当たりをして、成績表を奪い取りました。
体のバランスを崩してお母さんが倒れ込みましたが、気にしている場合ではありません。
私は素早くリビングへと移動してお目当ての成績表を開きました。
『人間的評価 -100』
科目ごとの評価を見るより先にその文字が目に飛び込んで来ました。
人間的評価。
ナイマス100。
ゾッと背筋が寒くなります。
先生からのコメント欄にはなにも書かれていません。
左側の科目欄を見てみると、体育意外の科目すべてが2か1。
最低ランクの成績になっていました。
「お前らにだって書かれてるんだ! 見えないだけで書かれてるんだ!!」
突然叫び声が聞こえてきて持っていた成績表を床に落としてしまいました。
振り向くとキッチンから血走った目をこちらへ向けるお母さんがいました。
始めてみた時驚くほど綺麗だったその人は、もうここにはいません。
まるで妖怪のような顔をした女性がそこにいました。
「ひっ!」
思わず悲鳴を上げた時、正樹が走ってきて私の手を掴みました。
「逃げるぞ!」
一言そう言い、一気に廊下へとかけ出ました。
後ろから大輔くんのお母さんが大声を上げながらついてきます。
だけどなにを言っているのかは聞き取れませんでした。
それはまさに獣の咆哮。
息子を失ったあまり人間ではなくなってしまった女の姿でした。
私はたちは自分の靴をそれぞれ手に持つと外へ飛び出しました。
前に濡れた地面のせいで靴下が汚れるけれど、そんなこと気にしていられません。
走りながら自転車の鍵を取り出し、前カゴに靴を投げ込むとすぐに自転車にまたがりました。
「お前達だって評価されてるんだ! 気が付かないうちになぁ!」
玄関から出てきた大輔くんのお母さんの叫び声から逃げるように、私達は下り坂を一気に駆け下りていきました。
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