第13話
余計なことを行ってしまったという雰囲気を正樹は見逃しませんでした。
「それって、なにか理由があったんですか? 近所の人と喧嘩してたとか?」
「いえ、そういんじゃなくて……」
しどろもどろになって田んぼへ視線を向ける女性。
そしてその視線はまた私達へ戻ってきました。
「君たち○○小学校の子たちよね?」
「はい、そうです」
このとき私と正樹の返事がかぶりました。
女性はふぅーと深く息を炊き出すと、なにか覚悟を決めたような真剣な顔つきになりました。
「日吉さんところの息子さんがね、ある日突然いなくなったの。それが原因でご夫婦は引っ越したのよ。息子さんの思い出ある場所から遠ざかって前を向こうとしたんだと思うの。近所に挨拶がなかったのは、息子さんのことを言われるのが嫌だったからじゃないかしら」
「でも、ここで待っていないと息子さんが戻ってきたときに気が付きませんよね?」
そう聞くと、女性は目を大きく見開いて黙り込んでしまいました。
それはまるで日吉大輔くんはもう戻ってこないと、知っているような態度でした。
「とにかく、そういうことだから」
女性は早口にそう言うと田んぼの中に入っていってしまって、私達が声をかけても返事をしてくれませんでした。
☆☆☆
この街の大人たちはなにかを隠しているのかもしれません。
そう思い始めました。
田んぼで出会った女性も、もしかしたら昔自分の子供が○○小学校に通っていて、いなくなてしまっていたのかもしれません。
そんな疑念がぬぐえなくなったころ、私と正樹は自転車で市立図書館へ向かいました。
大型商業施設の中に入っている市立図書館にはあまり利用者の姿がありませんでした。
夏休み中で学生さんたちが来ていないからです。
時間帯によっては子供への読み聞かせがあるので賑わうのですが、この時はとても静かでした。
「どうやって調べるの?」
通路を歩く正樹の背中へ向けて問いかけました。
正樹は振り向かずに「パソコンを使わせてもらおう」と言います。
この市立図書館では1人1日1時間自由にパソコンを借りることができるのです。
自分たちが持っているキズスマホでは検索に制限がかかるので、事件や事故についての記事を詳しく調べることができません。
そんなときに、大助かりなんです。
受付でパソコンの使用許可を取った私達はすぐにこの近辺での行方不明者を調べはじめました。
どれくらい遡って調べたらいいのかわかりませんが、数だけで言えば想像していた何倍もの数の人々が失踪していることがわかりました。
その中での事件性のあるもの、自分から失踪したものなど、分類分けされるみたいです。
急に人がいなくなることがこんなに頻繁にあったのに、私はなにも知らなかった。
そのことが怖くなって、強く身震いをしました。
「○○小学校でいなくなった子も何人かいるみたいだな。5年前に吉岡勇って子がいなくなってる」
記事を読んでみると5年前、5年生だった吉岡勇くんが突如行方不明になり、今もまだ見つかっていないということが書かれていました。
「5年前に5年生ってことは、今は15歳になってるはずだね」
私達よりも随分お兄さんだ。
だけど勇くんがちゃんと15歳になれているのかどうかはわかりません。
「その子のこと、もっとよく調べることができる?」
聞くと正樹はなれた手付きでキーボードを叩きます。
私はパソコンをあまり触ったことがないので、関心しきりでした。
それから正樹が開いたページは画面が真っ暗で、なんだか嫌な雰囲気のするものでした。
「こういうページは本当はあまり見ちゃいけないんだけど、今だけな」
正樹はそう言うとページ内で更に検索をかけました。
検索ワードは『吉岡勇』です。
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