第11話

「で、そのときにこんな重たいものを運んでるんだから、少しくらい成績表を見てもいいだろうって思ったんだ」

それがいいことかどうかは別として、神田くんは他人の成績表を覗き見てしまったみたいです。


「あいつ、日吉っていうヤツなんだけど、科目ごとの評価がほとんど5だったんだ。ビックリしたよ。だってあいつ引きこもりってやつでほとんど学校に来てないんだよ?」


引きこもりという言葉に一瞬ドキッとしました。

ひきこもりとはなにか理由があって家から出ないとか、出られない人のことです。

そんな子が自分が通っている学校にいるとは思っていませんでした。


「家で勉強してたってことだろ。だから科目ごとの成績は優秀なんだ」

正樹が冷静に分析しています。

確かに、学校へ来ていなくても勉強は自分でできます。


もしかしたら、家庭教師とかがついているのかもしれないし、それでテストだけ受けに来ていい成績を残しているのかもしれません。

「そいつの成績表に『人間的評価』ってのがあったのを覚えてる。自分の成績表にはなかったから、なんだこれって思って」


「それで?」

話はここから先が重要です。

私は固唾を呑んで神田くんの話の続きに耳を傾けました。


「普通に荷物を届けて帰ったよ」

その言葉に拍子抜けしてしまいました。

無事に荷物を届けて終わりだったなんて。


「でも、その後いなくなった」

ワンテンポ置いてから言われた言葉に私の反応は遅れてしまいました。

一瞬ぼーっとしてしまい、それから「えっ!?」と聞き返したのです。


その声が大きくなりすぎてしまい、正樹も神田くんも驚いていました。

「今も見つかってないんだって。でもなんでかわからないけど、あまり話題にならなかったんだ」


同じ学校に通っている私もその情報は知りませんでした。

1年前に男子生徒がいなくなっていたなんて。

「それってもしかして夏休み中のことか?」


「うん。そうだよ」

正樹の問いかけに神田くんは頷きます。

こんな偶然あるでしょうか?


穂波がいなくなったのと同時期の1年前に、もうひとり男の子が失踪していたのです。

しかもその子はまだ見つかっていないようなのです。


こうなってくるとますます成績表に書かれていた『人間的評価』がなんなのか気になってきます。


「成績表にあった『人間的評価』っていうやつの評価はどうなってたの?」

そう聞くと神田くんは氷をガリガリと噛み砕きながら「マイナス100だったよ」と、教えてくれたのでした。


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