第10話
☆☆☆
成績表のことを思い出した私は寝る前に正樹にメールを送りました。
【人間的評価? なんだそれ】
正樹はすぐに自分の成績表を確認したようですが、やはりそんな欄は見当たらないようです。
だけど私は穂波のお母さんが言っていた『ターゲット』という言葉と照らし合わせて考えると、とても怖い感じがしたんです。
どうしてなのか、わからないけれど。
それから私と正樹は明日各自の成績表を持ち寄って確認するという約束をして、眠りにつきました。
☆☆☆
翌日の約束場所は私の家でした。
男の子を家にあげたことはないので緊張しましたが、この日の気温はまた40度近くになるそうで、テレビでは頻繁に危険な暑さだと言っていましたから、仕方ないんです。
両親が仕事に出てから帰ってくるまでには時間がありますから、その数時間だけでも成績表について調べてみようということになったんです。
もちろん、男の子を家に呼ぶことはお父さんにもお母さんにも言えませんでした。
私は両親が仕事に出たことを確認してから大急ぎでリビングと自分の部屋を片付けました。
リビングにはエアコンをつけて涼しくして起きます。
それから冷蔵庫の中に冷えた麦茶があることを確認して、製氷機の中で氷ができていることも確認します。
もしかしたら正樹は他の飲み物がいいと言うかもしれないから、麦茶の他に水で割って飲むタイプのカルピスをお歳暮の箱から取り出して冷蔵庫へ入れておきました。
これを出すときには水で割ることを忘れてはいけません。
以前ペットボトルのカルピスと同じだと思って原液のまま飲んでしまって、大変な思いをしましたから。
そうして準備が整ったところで、玄関チャイムがなりました。
慌てて出ていくとそこには正樹と、見知らぬ男の子がひとり立っていました。
「悪い。来るときに急にこいつのことを思い出して、呼んだんだ。5年生の神田っていうんだ」
私達の気まずい空気を察した正樹がそう言って神田くんを紹介してくれました。
神田くんは正樹と違って外で遊ぶタイプのようで、よく日焼けしていて半袖から除く腕は引き締まっています。
室内でずっと爆弾作りをしている正樹とは大違いです。
「はじめまして、急に来てごめん」
「う、ううん。正樹の友達なんだよね? よろしく」
年下と年上でも、小学生にとっては敬語は必要ありません。
私達は互いにぎこちない挨拶を終えてようやく室内へと入ってきました。
冷えたリビングに入ると男ふたりは生き返ったように大きなため息を吐き出しました。
その口から熱された炎が見えたような気がして、私は慌てて氷を沢山いれた麦茶を用意しました。
ふたりの中でマグマが渦巻いているのなら、すぐに消火する必要があります。
ふたりは麦茶を一気に半分ほど飲み干して、ようやく本題へとうつりました。
「それで、成績表のことなんだけど」
正樹がそう言っズボンのポケットから自分の成績表を取り出してテーブルに起きました。
無理やりポケットにねじ込まれていた成績表はクシャクシャにシワがついてしまっています。
正樹が成績表を開くと、つい科目ごとの評価に目が行ってしまいました。
正樹はほとんどの科目に2がついているのに、算数と理科だけが5でした。
5は私もつけてもらったことがない評価なのでなんだか嫉妬してしまいます。
「瑞希が言うには、ここに『人間的評価』ってのがあったらしいんだ」
正樹は私にではなく、神田くんへ向けて説明しました。
神田くんは真剣な表情でふんふんと頷き、話を聞いてくれます。
「1年前。僕が4年生のころだけど『人間的評価』って書かれた成績表を見たことがあるよ」
神田くんの言葉に私は思わず見を乗り出してしまいました。
「それ、どこで見たの?」
「友達の成績表。そいつ終業式の日に学校に来てなくて、家が近いから成績表や夏休みの宿題を届けに行くことになったんだ。ほんっと、二人分の宿題を持って歩くなんて地獄だったんだ!」
神田くんが大げさに嘆いてみせるので、私は真剣に「そうだよね」と、頷いて見せました。
重たい届けものがあるときは先生に行ってほしいと思うものです。
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