第8話

一気に階段を駆け下りて昇降口まで来た時、ようやく足を止めて肩で呼吸をしました。

ふたりとも自転車に乗っていたときよりも汗だくです。


「なんなんだよ、今の」

好きなことを否定された正樹の顔は真っ赤にそまっていました。

怒りをグッと抑え込んでいるのか、両手は拳になっています。


「でも、先生の言うことも正しいかも。警察に連れて行かれちゃうかもしれないよ?」

先生に便乗してずっと心配に感じていたことを言うと、正樹は黙り込んでしまいました。


このタイミングで私まで否定的なことを言うんじゃなかったかもしれない。

そんな後悔が生まれてきたとき、正樹がこちらを向きました。

怒られるかもしれないと身構えましたが、全然違う話でした。


「さっきの先生、なんかおかしかったよな?」

「え? あ、うん」

普段の先生ではない気がしていたのは確かなので、うなづいて返します。


「穂波の話からいきなり俺の爆弾作りの話になったし。なにか隠してる感じがするよな」

そう言わればそう感じ始めました。


あのタイミングで逃げ出したく鳴ることをわざと言ったのかもしれません。

ということは、先生は穂波がどこにいるのか知っているということになりませんか?

「先生にもう1度聞いてみようよ。穂波の居場所がわかるかもしれないから」


そう提案して職員室へ戻ろうとしたときでした。

廊下の奥から作業服を来た用務員さんが歩いてきました。


右手に脚立、左手に蛍光灯の箱を持っていましたから、どこかの電気が切れたのでしょう。

「こんにちは」


この小学校に長く努めている用務員さんがしわしわの笑顔で声をかけてきます。

「こんにちは」

私と正樹はすれ違いざまに頭を下げて通り過ぎようとしましたが、そこを呼び止められました。


「遊びに来たのかい?」

「いえ、穂波がいなくなったので、先生に話を聞きに来ました」

正樹が答えると、途端に用務員さんの顔色が肌色から青へと変化しました。


すーっという音が聞こえてきそうな変化に私と正樹は目をみかわせて驚きました。

「小田穂波ちゃんか……。その子のことはそっとしておいたほうがいい」

用務員さんは廊下を見回して誰もいないことを確認してから、そう言いました。


「穂波は友達です。探したいんです」

「ダメだ。子供が手出ししちゃいけないことなんだ」

私はとても真剣だったのに用務員さんに子供だからダメと言われてとても腹が立ちました。


なにか言い返したい気持ちになったとき、正樹が一歩前に出ました。

「この前、穂波のお父さんとお母さんに会いました。ターゲットとかなんとか言ってたんですけど、なにか知りませんか?」


『ターゲット』そういえば穂波のお母さんがそんなことを口走ってしました。

あの時はお父さんとお母さんの様子の違いに驚いていて、あまり真剣に聞いていなかったので、すっかり忘れてしまっていました。


正樹はちゃんと覚えていたようで、さすがだなと感心します。

「なにも知らない。さぁ、早く帰りなさい」

真っ青な用務員さんはそう言うと、私と正樹を追い払うように昇降口へと促したのでしまた。

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