第7話
☆☆☆
私達の通う小学校では夏休み中はグラウンドが開放されていて、子どもたちが自由に出入りをして遊んでいます。
この日も何人かの子どもたちの姿がありましたが、みんなこの学校の生徒のようです。
ブランコや滑り台で遊ぶ子供たちの横を通り抜けて校舎へと向かいました。
「俺、天才かもしれない」
校舎へ続く通路を歩きながら突然正樹がそんなことを言い出したので、私はとまどいました。
「天才?」
ようやくそう質問すると、隣を歩く正樹が満面の笑みをこちらへ向けました。
その顔は誕生日とクリスマスが同時にやってきたような、そんな笑顔でした。
「爆弾が完成しそうなんだ」
小声でそう言われて私は更に戸惑いました。
本格的な爆弾を密かに作っていることは知っていましたが、完成間近だったとは。
「それ、本当に爆発するの?」
「やってみなきゃわからない。でも、できる気がする」
自信満々に言う正樹の目が輝いています。
人は本当に好きなことをしているときには目が輝きますが、正樹もそんな目をしていたので、ダメだとか、やめといたほうがいいとか、否定的なことは言えませんでした。
「そうなんだすごいね」
私はそう答えながらも、どうか正樹の爆弾が不発で終わりますようにと願っていました。
それから校舎内へ入って、最初に6年A組に行きました。
そこが私と正樹と穂波の教室です。
階段を上がって3階まで行き、一番手前の教室です。
だけどそこには鍵がかけられて中に入ることはできませんでした。
それに誰もいない校舎内は窓が締め切られていてムッとします。
ジワジワと流れてくる汗を手の甲でぬぐって、今度は職員室へと向かいました。
そこには夏休み中にも交代で出勤してきている先生がいるのです。
なぜなら、グラウンドを開放しているから。
それに、中庭にはうさぎを3羽飼っているので、お世話が必要です。
今日は誰が来ているんだろうと思いながら職員室のドアに近づいて3回ノックしました。
出てきてくれたのは私達の担任の先生でした。
授業があるときにはもう少し険しい表情をしている先生ですが、この時は目が細められて穏やかな雰囲気がありました。
「あら、どうしたの? 遊びにきたの?」
私と正樹を見た先生はすぐに笑顔になって、自愛のある声色で質問してきます。
そんな先生を見て一瞬穂波のことを聞くのはやめようかと思ってしまいました。
せっかく優しい先生の笑顔が崩れてしまうかもしれないと思ったからです。
でも、穂波のことをきかないと学校にきた意味がありません。
勇気を出して質問するとにしました。
「穂波はどこに行ったんですか?」
私の質問にさっきまで下がっていた先生の目尻が鋭く上がって、やっぱり聞くんじゃなかったとすぐに後悔しました。
だけどもう遅いです。
行ってしまった言葉をもう一度飲み込むとこはできません。
「大丈夫よ。あなたたちが心配することじゃないから」
そう言い切った先生の言葉には違和感がありました。
大丈夫とは、穂波がどこにいるのか、なにをしているのか知っているときの言葉じゃないでしょうか?
友達がいなくなって心配になるのは普通のことなのに、心配しなくていいというのは、無理なことじゃないでしょうか?
それに先生が私達から視線をそらせていることも気になりました。
先生はなにか知っているんじゃないか。
そう、思いました。
「先生は穂波がどこにいるか知っているんですか?」
正樹が質問すると、今度は先生が真っ直ぐにこちらを見ました。
その目はさっきよりつり上がっています。
だけどなんだか、わざとそうやっているように感じられました。
「そんなことより藤井くん、あなたまた爆弾を作っているみたいね? そんなことをしていたら、警察に捕まりますよ?」
急にあらぬ方向から攻撃を受けて正樹が戸惑った顔になりました。
先生は畳み掛けるように爆弾作りを非難します。
変な趣味だとか、悪いことだとか。
先生はどんな趣味を持っていても、それをけなすようなことは決して言わない人でしたから、私も正樹も驚いてしまってその場から逃げ出しました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます