第5話 門限
穂波がいなくなったというのはしばらくすると学年中が知ることになったようです。
夏休み中にどうしてそんなことがわかったかと言うと、お母さんからこんなことを言われたからです。
その日の夕飯はそうめんでした。
お父さんが作ってくれた天ぷらも添えて食べていたとき、お母さんがふいに真剣な顔で私を見ました。
私はなにか怒られることをしただろうかと一瞬身構えましたけれど、穂波のことでした。
「穂波ちゃん、まだ見つかっていないんだって。危ないから、あまり出歩いちゃダメよ?」
「うん。わかった」
もとより外は灼熱地獄です。
今日も40度近くまで気温があがっていたようで、窓から見る外の景色はゆらゆらと揺れていました。
あれが蜃気楼というものらしいです。
「しばらく5時に帰ってくるようにしなさい」
お母さんの隣に座って黙々とそうめんをすすっていたお父さんにそう言われて、私は目を丸くしてしまいました。
このあたりのチャイムは6時に鳴るので、みんな6時になるまで遊んで家に帰っています。
それが、5時!
1時間前に家に帰るということは、チャイムの音を頼りにしちゃいけないということです。
自分で時間を確認して、5時になったら家に戻る。
それは常にチャイム頼りにしていた私にとっては驚くべきことでした。
「じゃ、じゃあチャイムが鳴る前に帰ってくるの?」
「そうだよ。だいたいあのチャイムの時間がおかしいんだ」
「そういえば昔はこの辺にあった工場の終業の合図で使ってたらしいから、時間が遅いまま変わってないのね」
お父さんとお母さんの会話はどんどんそれていって門限とは関係のない話になっていきます。
私はどこかで口を挟みたかったかれど、結局なにも言えないままでした。
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